第一話 わらしじゃないもん

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第一話 わらしじゃないもん

 時は戦国時代。  月明かりが明るい夏の夜だった。  一組の夫婦が箱を一つ抱えて川辺にやって来た。  彼らは薄汚れた身なりをしたお百姓さんだ。 「お静、ええな」 「はい、十兵衛さん。仕方ありません」  すると、箱の中のものが声を出した。 「ウ〜」  それを聞いたとたんお静が泣き崩れた。  十兵衛は心配そうに声をかけた。 「お静」 「すいません、十兵衛さん。早く、早く川に流してしまって。家族が増えたら、私達本当に生きて行けなくなる。川に流せばきっと誰か拾ってくれる」  箱に入っているのは赤ちゃんだ。しかも生後間もない。 「ああ、わかっただ」  十兵衛は身をかがめ、箱を川の流れに放とうとした。  と、その時後ろから子供の声が聞こえて来た。 「だ、だめーっ! それ赤ちゃんでしょ。だめだよそんな事しちゃ」  夫婦は驚いて声のする方に振り返った。  妙な格好の四、五歳の女の子がこっちに向って走って来た。  そしてバランス崩して思いっきり転んだ。  ビタン、ゴチン! 「痛ったーい。子供の体って頭重いんだもん。おでこ擦りむいちゃったよ」  あまりに突然の事に夫婦は呆気に取られた。  お静さんの涙も引っ込んだ。  十兵衛は恐る恐る声をかけた。 「だ、大丈夫だか?」  女の子はゆっくり立ち上がった。 「だ、大丈夫です。……って言ってる場合じゃないでしょ。それ赤ちゃんでしょ。今、川に捨てようとしてたでしょ。ダメだよ、そんな事しちゃ。赤ちゃん死んじゃうよ」  すると十兵衛は声を荒げて答えた。 「んな事わかってるだ。でも、こうするしかねえんだ。お前みたいな童子(わらし)に、おら達百姓の暮らしがわかってたまるか」 「わ、童子じゃないもん。こう見えても私十六だもん。……あ、すいません、小さいって言われるのはコンプレックスなもんで」  十兵衛は一つ深呼吸して尋ねた。 「お前さん、何なんだ」 「あ、そうか。申し遅れました。私ノノって言います。未来から来たトレジャーハンターです」
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