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読者。その言葉に、涼音ははっとした。悟ったからだ――この人物がただ自分の荒らし行為を咎めただけではなく、一度涼音の作品を読んだことのある読者であるということを。
それでも、感想を書かなかったのは、“書けなかったから”であるということを。何故か。遠回しだが、それでもはっきりと告げられている――面白くなかったからだ、と。
何故面白くなかったのか。涼音には、まったく見当がつかない。自分は最高傑作を書いたという認識しかないのだから。
『読者には、作者の辿ってきた人生やら承認欲求やらなんか二の次なんです。作品が面白いか、面白くないか、それだけなんですよ。だから、“自分がこんな辛い思いをしてきたんだからこれは無理、受け止められない”を言い訳にしてはいけません。そんな言い訳、読者には関係ないのですから』
だからこそ、面白さという意味では誰もが平等のラインに立てるんですよ、とさくら。
『スズカさん。貴女は、何の為に小説を書いているのですか?その理想に近づきたいなら……このままの自分でいいと本当に思いますか?』
スズカ、というのが自分のハンドルネームだ。何のために、書いているのか。それは認められたいからだ――と打ちかけて、涼音は固まる。違う、そうじゃない、と思い出したからだ。
確かに、自分の小説を読んで、みんなに褒められてもてはやされたい気持ちがあるのは事実。しかし、書き始めた最初のきっかけは、もっと別のところにあったはずである。そう。
――私は……ただ、自分の思い描いた物語を、形にしたかったんだ。それを、ちょっとでもいいから誰かに伝えたくて。読んで、少しでも誰かの世界に影響を与えられたらいいなって……最初はそれだけだったのに。
どうして、そんなことさえ忘れてしまったのだろう。誰かを押しのけてランキングに昇るとか閲覧数を稼ぐとか、迷惑をかけて通報されるような行為を繰り返してまで読まれるとか。そんなことよりもっと、大事なことがあったはずなのに。
今の私の作品は、流行に乗った要素を無理やり詰め込んだだけ。本当は悪役令嬢どころか、スローライフも書きたくないし、ざまぁ要素なんか大嫌いだ。もっと言えば異世界ファンタジーより、現代ファンタジーの方が書きたかったはずなのに、読まれるためと無理をして書きたくないものを書いたのではなかったか。
それで苦労して十万文字も稼いだのにどうにもならなくて、それで。
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