7人が本棚に入れています
本棚に追加
『……あんたなら』
自分の作品に、難点があるなんて思いたくない。
自分は誰もに認められる才能の持ち主であると信じたい。
長所だけ伸ばしていけばキラキラ輝ける、文芸の天才だと思い込みたい。
でも――現実は、そんな甘いものではないから。星屑の数ほどもいる作家志望者の中に埋もれないためには、あとほんの少しの勇気がきっと必要で。
『あんたなら。……わかるっていうの、私の作品の……ちょっと、良くないとこ』
自分の短所を、間違いを、弱点を、認めて克服する勇気。それを持つのは、どんな人間であって難しい。
私が声を振り絞るように打ち込むと、彼女はこう返してきた。
『私でよければ。……スズカさん。よく、勇気を出しましたね』
自分は神様に愛された人間だと、きっと誰もが思い込みたいことだろう。たった一つ自信を持てること、誰にも負けないところがあればどれほどいいだろうか。
でも大抵、自分が得意と思ったことにさえ、上には上がいる。その“上には上”の人でさえ、群雄割拠の世界で生き残ることができなかったりする――それが現実だ。ナンバーワンよりオンリーワンなんて歌もあるけれど、人はそう簡単にナンバーワンにもオンリーワンにもなれやしないのである。努力をしない限り。そして、“正しい努力をする勇気”を持たない限り。
自分は、ただの凡人だ。
できないことがたくさんある。できるようになるためには努力をしなければいけない。
それを認められるか、認められないか――飛び立てる人間と飛び立てない人間の最初の境界線は、きっとそこにあるのだ。
『スズカさんスズカさん、雑誌見ましたよ!ルナイン新人賞のやつです、おめでとうございます!』
唯一無二の親友となった“さくら”から、そんな知らせを貰って涼音が号泣することになるのは、最初のやり取りからゆうに九年後のことである。
受賞した作品のタイトルは“青薔薇が花開く時”。
青薔薇の花言葉は、“夢かなう”。そして“奇跡”。
奇跡は、待っていて起こるものではなく、自らの手で引き起こすものだと今の涼音は知っている。
たった今咲いた夢の一輪こそ、自分にとっての全ての始まりなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!