青薔薇が花開く時

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『……あんたなら』  自分の作品に、難点があるなんて思いたくない。  自分は誰もに認められる才能の持ち主であると信じたい。  長所だけ伸ばしていけばキラキラ輝ける、文芸の天才だと思い込みたい。  でも――現実は、そんな甘いものではないから。星屑の数ほどもいる作家志望者の中に埋もれないためには、あとほんの少しの勇気がきっと必要で。 『あんたなら。……わかるっていうの、私の作品の……ちょっと、良くないとこ』  自分の短所を、間違いを、弱点を、認めて克服する勇気。それを持つのは、どんな人間であって難しい。  私が声を振り絞るように打ち込むと、彼女はこう返してきた。 『私でよければ。……スズカさん。よく、勇気を出しましたね』  自分は神様に愛された人間だと、きっと誰もが思い込みたいことだろう。たった一つ自信を持てること、誰にも負けないところがあればどれほどいいだろうか。  でも大抵、自分が得意と思ったことにさえ、上には上がいる。その“上には上”の人でさえ、群雄割拠の世界で生き残ることができなかったりする――それが現実だ。ナンバーワンよりオンリーワンなんて歌もあるけれど、人はそう簡単にナンバーワンにもオンリーワンにもなれやしないのである。努力をしない限り。そして、“正しい努力をする勇気”を持たない限り。  自分は、ただの凡人だ。  できないことがたくさんある。できるようになるためには努力をしなければいけない。  それを認められるか、認められないか――飛び立てる人間と飛び立てない人間の最初の境界線は、きっとそこにあるのだ。 『スズカさんスズカさん、雑誌見ましたよ!ルナイン新人賞のやつです、おめでとうございます!』  唯一無二の親友となった“さくら”から、そんな知らせを貰って涼音が号泣することになるのは、最初のやり取りからゆうに九年後のことである。  受賞した作品のタイトルは“青薔薇が花開く時”。  青薔薇の花言葉は、“夢かなう”。そして“奇跡”。  奇跡は、待っていて起こるものではなく、自らの手で引き起こすものだと今の涼音は知っている。  たった今咲いた夢の一輪こそ、自分にとっての全ての始まりなのだ。
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