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「……それって、ストーカー? セノくん、前の彼女のことそんなにこっぴどく振ったわけ」
言葉は返せなかった。
俺から振ったのは、確かだ。でも別に、付き合っていた当時も別れ話を持ち出した時も、ひどい対応をしたつもりはない。
ただ、頑なに別れの理由を聞き出そうとする彼女に、明確な返答をすることができず、俺は逃げるように連絡先と職場を変えていた。
「……そうだよ。私、誰かに背中を押されたの。酔ってたのもあってさ、無防備だったわ。馬鹿だよね。一応警戒してたのに、結局まんまと殺されそうになっちゃって」
警戒。
その言葉に反応している俺に、答えるようにカガヤは話す。
「私ね、いつも見てたの。駅前に女性が立ってるところ。髪なんかボザボサで、いつも赤いハイヒールで、目をギョロギョロさせて辺りを見てた。でもある時、彼女がセノくんのこと見つけて追いかけていくの目撃しちゃってさ。あーセノくん、何かトラブルでも抱えてんのかなぁなんて思ってた。でもあの日、飲み会の帰りのあの日ね、ちょっと様子がおかしくてさ。彼女、ハイヒール手に持って、裸足だったの。あんなに人通りの多い駅前で、そんなことしたら目立つのにね。私にはそれが、まるで足音を消そうとしてるみたいに見えてさ……。なんだか嫌な予感がして、気がついたら私、セノくんのこと追いかけてた」
俺は静かに目を閉じた。
そして、一年前に聞いた、彼女の呟きを思い出していた。
〝ねぇ、私がカズマくんの上司になったらどうする?〟
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