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「セノくん、お久しぶりねぇ。えっと、一時間ぶりかな?」
「……お前、なんでこんなところにいるんだよ」
「なんでってなによー。私の家こっちだもんよ」
そう言って、カガヤはさも当たり前というように横に並んで歩き始める。思わず舌打ちをしそうになった。
家がこっちの方だって。くそ。
以前から、カガヤが俺と同じ駅で降りるところを見かけてはいた。だけれど、彼女はいつも南口の方へと姿を消すから、俺の住むマンションとは方向が違うと思っていたのに。
そっと、カガヤの足元を見る。
ヒールだ。ハイヒールというほど高くはないが、赤いヒールの靴を履いていた。いつもこんな靴を履いていたのだろうか、社内は全面マットで足音がしないから気づかなかった。
彼女とは何度も仕事で話したことはあるけれど、プランナーとプログラマーという間柄もあってか、足元の嗜好を把握するほど近しい距離感ではない。
「セノくん、今日終始不機嫌だったねぇー。どうしたどうした、なんか悩みでもあるなら私に相談してみ?」
カガヤは先ほどから壊れたおもちゃのように笑い続けていた。
思わずため息が漏れる。
「悩みならあるさ。こうして、同い年だからってお前がいちいち絡んでくることだよ。ついてくんな、目障り」
「あっ、ひどー。私たち、来月から同じプロジェクトの仲間でしょー?」
「知るか。……お前、さっき俺が言ったこと忘れてるだろ」
睨んでみせたけど、カガヤは笑みを崩さない。カガヤのそういう、何事にも動じない〝鉄のハート〟が気に食わなかった。
「セノくんって歪んでるよね。普通、飲みの席であんなこと言う?」
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