暗闇とハイヒール

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  「私ね、男の人嫌いだったの。前の会社で嫌われてたから」  その告白に、思わずぴくりと眉が動く。  意外だった。なんだんだで容量よく立ち回るカガヤは、誰にでも好かれるタイプだと思っていた。 「前の会社って。……エス・シー・ゲームス、だったか」 「そ。大手だし、当然男女平等あたりまえと思ってたんだけどね。散々だったな」  カガヤがペットボトルの蓋を開ける。  プシ、と気の抜けた音がした。 「私、上にいきたくてさ。企画案は誰よりも出したし、周りのみんなともいい関係を築いてたつもり。でも、女が出しゃばってるのが気に食わなかったのかね。ある時大型案件のディレクションまかされたんだけどさ、びっくり仰天よ。私、課長と付き合ってるから贔屓されて抜擢されたんだって、チームの男どもにデマ流されたの」  どん、とまたお茶を胸に押し付けられ、つい受け取ってしまった。  カガヤの言葉に同調したくなんかなかったのに、自然と言葉が出てくる。 「そんなことあるのかよ」 「でしょ。上司と恋仲だから仕事もらえるとか、そんな甘い世界じゃないよ。でもね、私ディレクター降ろされたの。課長はもちろん私がそんなことしてないってわかってたけど、〝やっぱり開発(うちの部署)はオトコが上にいた方が丸くおさまるから〟だって」  カガヤが喉を鳴らしながらお茶を飲みくだす。ペットボトルの半分くらいまで減らしたところで、大きく息を吐いた。 「気づいたら私、男の人のこと憎むようになってた。絶対負けるもんか、あいつらより絶対上に行ってやる、って……。最初は純粋に、いろんなゲームが作りたかっただけだったのにさ。いつのまにか目的が変わっちゃってた。……それで、こんなんじゃダメだって思って、ここに転職してきたの。環境変えたくて」  気づくと俺は黙って話に聞き入っていた。  寝静まった静かな住宅街に、カガヤのリズミカルな足音だけが響いていた。  コツ、コツ、コツ……。でもなぜだろう、今はさほど気にならない。  不思議だ。さっきまで、あんなにあの音が煩わしくてたまらなかったのに。  
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