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「……今は?」
呟くと、カガヤは歯をむき出しにして笑った。
「ハッピー、ハッピーよ。この会社、みんな仲がいいよね。まだまだ若くてこれからの会社だけどさ、私好きだよ、この雰囲気。ただ一名、女嫌いの男がいるのがたまにキズだけど」
ふっ、と鼻で笑った。
カガヤはまた一口、ペットボトルに口をつける。
「……だからね、せっかくの飲み会だから、唯一の問題児と仲よくなれたらと思ったんだけどねぇ……」
そう言って、彼女はぼんやりと道の先を見つめていた。
強くて、芯がある女。
理不尽な仕打ちにも負けない。自分の感情を分析し、反省する。行動して立ち向かう力がある。
俺のカガヤのイメージは、そんな感じだった。
……でも、だからこそ、俺はカガヤが嫌いなのだ。
お茶を飲まずに鞄の中に放り込むと、俺はジャケットのポケットに手を入れた。
「お前の出世のために友達ごっこをする気はねぇよ。心配しなくても、仕事はちゃんとやる。だからもうついてくんな」
そう言ってちらりと横を見る。すると、そこには意外な表情があった。
悲しそうな、目。
先ほどと同じ笑顔なのに、目だけが潤んで、月明かりの下でゆらゆらと揺れていた。思わずその顔を凝視する。カガヤのそんな表情を見るのははじめてだった。
でも、それは一瞬のことだった。
「……あー、それを聞いて安心しましたぁ。ま、来月から一緒にがんばろうぜ。おやすみ!」
カガヤは笑顔で手を振ると、くるりと踵を返し駅の方へと歩き出した。
なんだよ。戻るのかよ。
いつのまに自分の家を通り過ぎていたのだろう。じっと、その後ろ姿を見つめる。別にカガヤの身の上話なんてさして興味もないのだから、話の流れなんかにかまわず帰ってくれればよかったのに。
そんなことを思いながら、なんとなく、声をかけた。
「……なぁ」
カガヤの足がぴたりと止まる。
ペットボトルを指先で揺らしながら、彼女はゆっくりと振り向いた。
「お前の家、本当に北口なの」
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