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同僚に聞いた話によると、カガヤは俺と別れたあと、そこから少し離れた場所にある大きな歩道橋の階段から転げ落ちたそうだった。
そして、左足首を捻挫。全治二週間。当たりどころが悪くて、しばらくは松葉杖がかかせないらしい。
先を行っていたカガヤが、そっとこちらを見やる。
その視線を感じて横に並ぶと、カガヤは急にすまし顔になった。
「……誰って、何? 私一人だったよ。嫌だね、酔っ払ってすっ転んで、みんなに迷惑かけて恥ずかしい」
「嘘だ」
俺は大きく息を吐いた。
「お前、誰かに背中を押されたんだろ。それで落ちたんだ。あの日のお前、酔ってはいたけど足元はしっかりしてたよ。あの時……、……俺たちのそばに、もう一人、人がいたんだ。その人はここ半年くらい、ずっと俺のことをつけていて」
カガヤが口を結ぶ。俺は先を続けた。
「お前を階段から突き落としたのは……俺の、前の、恋人かもしれない」
半年もの間、しつこくついてきていた耳障りな足音。
それを、俺は無視し続けていた。向き合った先にある真実を知るのが怖かったから。でも、どうしても気になって、一度だけ振り向いたことがある。
その瞬間、路地裏の向こうへと隠れた残像のかけらに、見知った赤いハイヒールが見えたのだ。
「毎晩俺のあとをつけてたなんて、嘘だったんだろ。つけてきてたのは……俺の、前の彼女なんだから」
会話が途切れ、不意に辺りは静寂に包まれた。
しかししばらくして、カガヤはわざとらしく、鼻からふう、と長く息を吐いた。
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