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「イサ、おいイサ」
「あ、ああ」
「どおした、ぼーっとして」
「お、おう」
「まだ残ってんぞ」
カズが線香花火をよこした。
昼間、笹和商店街のサマーバケーション福引きに行った。一等は最新型テレビ。オリもヒロも俺も十等のガムだったが、カズが五等の花火セットを当てた。二十連発とか落下傘とかいろんなのが五十本も入っていた。
カズは全部ひとりでやると言い張ったが、俺たちが友情と孤独の話をすると、「ガムをよこせば十本ずつやらせてやるよ、ちきしょう」ということになった。
残りが線香花火だけになったとき、カズは最後にとっておいた打ち上げ花火を地面に置いた。直径七センチはあるどでかいやつだ。倒れたり爆発するのが恐くて俺たちは離れたところに逃げた。パチッ、パチッとカズがライターを点ける。が、なかなか打ちあがらない。
「なにやってんだよ、カズ」
ヒロがしびれを切らせた。
「火がつかねえんだよ」
古くなった花火は導火線が湿気ていて火がつかないことがある。
「導火線の根元をあぶれ」
俺は言った。それしかない。
「爆発したらどうすんだよ」
言いながらカズは導火線の端にライターの火をあてている。と――
シュル、シュル、シュルシュルシュル。
いきなり火が点いた。カズが転びそうになりながら駆けてくる。そして――
ヒューーーッ。パーン、パパパーン。
花火が上がった。七色の光の輪が幾重にも夜空にひろがって、消えた。
キラキラ消えていく火の粉をながめながら俺はじいちゃんと見た花火を思い出していた。
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