スマホが壊れた日

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 スマホを壊した日の昼。  どこにも行く宛もなく、家で暇を持て余していると、ふと今まで見てもいなかったものに目が止まるようになった。  玄関に置いてある生け花。  俺と亡くなった父が好きな紫陽花の花が生けてあった。誰に言われるでもなく、丁寧に飾られていた。俺はもちろん飾ったことなどなく、感想も言ったことはない。花は喜ぶように瑞々しく色付いていた。毎日手入れが行われている様子だった。  そのまま玄関に置いてある自分の靴に目を落とす。古ぼけた形だが、色落ちが緩慢でずっと履いているスニーカー。膝をつき、その靴をよくよく観察してみる。艶が出ていて、誰かが磨いていることに気付いた。俺は全然磨いていない……。  床についた手に埃が全くついてないことに気付く。もう一度、床に手を這わせてみる。すべすべとして、毎日の掃除が欠かされていないことが窺われた。廊下の隅の方まで観察しても、日の光を綺麗に反射するほど、綺麗に拭かれていた。  ダイニングに戻った俺は、冷蔵庫に貼られたカレンダをじっと見た。細かく、予定がぎっしりと書かれていた。母の字だ。ほとんどは仕事の予定だった。  この家の稼ぎ手は、母しか居ない。  俺は、そのカレンダをみて、母に自由といえる時間がほとんどないことに今更思い至った。
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