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結婚式
今日は二人の共通の友人の結婚式だ。和実と僕は元々同じサークルに所属していた大学の同級生だったが、卒業後、和実は理系の院に進み僕は就職したので今は社会人と学生だ。今日の新郎新婦はどちらも同じサークルの同級生で、在学中から公然と付き合っていた名物カップルだった。
挙式の行われるチャペルの最寄駅に着くと、和実は既に足が痛いと言い出した。革靴なんて滅多に履かないだろうし無理はない。石でできたチャペルの外観は無機質だが荘厳な佇まいで、一歩中に足を踏み入れると三月だというのに肌寒いくらいだ。古い木と煤の混じり合った柔らかな匂いがした。教会の匂いだ。天窓から降り注ぐ陽光に照らされた長椅子には、同じサークルの同級生だけでなく先輩や後輩、就職組から院生組まで懐かしい面々が沢山いて、一瞬にしてその場に、埃と少しのカビが入り混じったあの頃の部室の匂いが充満するかのように感じられた。
「久しぶり!二人一緒に来たの?相変わらず仲良いね」
そう声をかけてきたのは僕と同じ就職組の絹ちゃんだった。絹ちゃんは髪をアップにして、ネイビーのドレスの首筋に白いボレロを巻いていた。少し痩せたようで、化粧も大人っぽくなっている。耳には木でできた大きな飾りがぶら下がったピアスをしていた。久しぶりに会う女の子のこういう変化を目にする度に、向こうには自分がどう写っているだろうかと不安になる。昔からちっとも変わらないままだと思われているだろうか、それとも少しは垢抜けたと思ってもらえているだろうか。絹ちゃんを一目見た和実は、子供でもわかるくらいわかりやすく目を逸らした。表情から「しまった」という声が聞こえてきそうだ。それを見た絹ちゃんは少し気まずそうにしながら、僕に向かってだけ笑いかけた。そして僕は、数年の時間が経っても和実にはまだそういう気持ちがあるのだと、改めて思い知らされる。
挙式の間中、和実は新郎新婦ではなく斜め前に座っている絹ちゃんの耳元の飾りの揺れを眺めていて、僕はと言うと、隣にいる和実の視線の先ばかり追っていたので、結局同罪だった。新婦の真っ白なパニエより、新郎の着ているピシッと決まった明るいグレーのタキシードよりも、サイズがいまいち合っていなくてお父さんのを借りて着ているような和実の不恰好なスーツ姿に、僕は胸をかきむしられる。
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