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「そもそもお前、何に対しても飽きっぽいだろ。ゲームだって続かずにコロコロ違うのに変えてるし1つの事に熱中した経験なんか無いんだろ。」
その言葉に僕はムッとした。
「引きこもりだからゲームは1週間もやればやりきった気分になるんだよ。データ削除してなくてまたやりたくなった時に再開するし飽きたわけじゃない。」
「……じゃあ人間は?」
すると、陽介くんは欠伸をしながらゆったりとした口調で僕に訊いてきた。
「人は…………。」
陽介くんは、「誰かに恋でもした事はないのか?」と僕に訊ねたいのだろうか?
取り敢えず、人に飽きたなんて思った事がない。
一度人間関係に疲れて逃げ出した経験はあるけれど、逆にその経験が人に執着する理由付けになってしまった。
「答えられない、か。ガキだなぁお前……。」
「…………。」
そう。この僕も、陽介くんと同居を始めた6年前から不毛な恋をしているんだ。
陽介くんが居てくれる10時から11時までの1時間……
僕はその大半を、彼にこうやって足を向けてさほど興味なさそうな声で喋って無駄に費やしているけれど、本当はこの時間ほど幸せに感じない時はない。スマホゲームやネット動画鑑賞はこの1時間の為の単なる繋ぎでしかないんだ。
前半の、彼の口から言葉と共に吐く煙草の臭いも笑った息遣いも。
後半の、規則的に発せられる寝息も時々漏らす寝言も。
この部屋で過ごす陽介くんの全てを……。
僕は息を殺すように集中して吸収し、身体を震わせるんだ。
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