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この頃長州は「朝敵」の烙印を押され、京都で長州藩士は、新撰組や京都見廻り組などに命を狙われる存在であり、幕府は第二次長州征伐の日取りを日々話し合っている頃で、木戸等が入京すること自体命懸けなのであった。
危険を承知で京都に入ったのも、大国薩摩と密かに同盟を結ぶ為であり、一年以上前から坂本龍馬や中岡慎太郎などが奔走し、やっと漕ぎ着けた大事業であったのだ。
しかし、木戸等が入京した翌日から、西郷吉之助(隆盛)等による薩摩代表団は、朝食会を開き互いに自己紹介をしたきり何も話さず、食事が済むと退席してしまい、昼食会におなじ面子が顔を揃えはするが、ほぼ無言のまま食事が済むとまた退席してしまう。
こんなことが朝昼晩の食事会で行われること十日間なにも身になる話しをしていないのだと、木戸は力なく坂本龍馬に訴えると、長州のやるせない心情を語りだした。
「坂本君の怒りはよく分かるが、長州と薩摩の立場は違う、薩摩は堂々と朝廷にも幕府にも、もの申せる立場で、長州は活路を見いだせず藩士は皆死を決しておる。そのような長州が口火を開き、同盟を請えば、その時から薩摩を死地に追い込むことになる・・・そんな長州が薩摩が口を開かないことに何か言えよう物か」
言い終える頃には、木戸は声を詰まらせ、目を潤ませ龍馬を見詰めていた。
「確かに・・・確かに桂さんの仰るとおりじゃ!じゃが京を発つのはチックと考え直してたもんせ!ワシが西郷さんと話しを付けてくるキニな!」
そう言って退室すると、龍馬の表情は再び仁王のように激しく変わり、西郷のいる薩摩藩邸まで駆けだした。
薩摩藩邸に無言で上がり込んだ龍馬は、藩士等の制止にも「ふん!」とだけ答え、髪の毛を振り乱しながら西郷が居るであろう部屋の襖を壊れんばかりに開けた。
その部屋には大仏のような重量感のある西郷が、元からそこに備え付けられているかのような安定感で座ってこちらを見据えていた。
「西郷さんアンタっていう人は何を考えちょるがか」
龍馬は言いながら西郷の鼻に触れそうなぐらい顔を近づけ吠えた。
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