鮭のお茶漬け

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昔から、母親によく言われているセリフがある。 ーーお前は、器用貧乏だ と。 なんでもそれなりにはこなせても、肝心なところがダメ。 特に対人関係において、本当の意味で相手のことを思いやれていないと。 俺はあの人から、褒められた覚えがなかった。 物心ついたころからそれが普通だった俺からしてみれば、特に悲しかった記憶もないが。 とにかく「もっと相手の立場に立て。お前の頭の中を他人が覗けるわけではないと知れ」とことあるごとに叱られた。 今までは、適当に流してきた。 が、今思えば母親の言うことは正しかったんだろう。 山田さんにしてきたことを振り返ってみて、改めてそう思う。 半ば強引な提案で彼女を引き込み、想いを伝える前に体の関係を持ってしまった。 俺からしてみれば、そもそも好意のない女性を部屋には招かない。 だから、多少言葉足らずでも理解してもらえるだろうと。 だけど山田さんの側に立ってみれば、部屋に住まわせる代わりに体を要求されたと感じても仕方ないことで。 幸い彼女はそんな風には考えていなかったようだが、それで嫌われたとしても俺はなにも言えない状況を自分で作った。 さっきの飲み会のこともそうだ。俺は頭では、理解していた。 山田さんが、俺になにか行動してほしくて打ち明けてくれたわけではないこと。 なのに三ノ宮の顔を見たらいてもたってもいられなくて、あんな子供じみた喧嘩の売り方をしてしまった。 もっと、上手く立ち回れる人間だと思っていたのに。 どうやら俺は自分のことを、買い被り過ぎていたようだ。 「はぁ…」 猛烈に、後悔。なにやってんだ、アホ。 タクシー中に陰気くさい空気が充満して、ミラー越しに映る運転手の顔色が降りる時には若干青白くなっていたように見えたのは、気のせいか。
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