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「お世話になりました」
「こちらこそ。働き者の山田さんには随分助けられたよ。明日から寂しくなるね、お疲れ様」
部長はそう言って笑ってくれた。とても、寂しいと思っているようには見えなかったけど。
私も同じように、笑いながら頭を下げた。
山田来未二十四歳、悲しいことに明日から仕事がありません。
ーー事の発端は正直、私にもよく分からない。
気付けば私は、女子のリーダーみたいなポジションの三ノ宮さんに嫌われていた。
大学を卒業後不動産関係のコンサルティング企業に就職して、そこで庶務として一生懸命働いていた。
昔からとろいとかマイペースとか散々言われてきた私だけど、それを自覚してるから会社の人達に迷惑をかけることだけはしたくなかった。
朝誰よりも早く出社して、前日に覚えられなかったことを必死で復習した。周りの人達の飲み物の好みもメモを取って、何度も聞かなくてもすぐに持っていけるようになった。
それでも確かに、人よりも仕事の処理スピードは遅い。だから迷惑をかけたり、イライラさせてしまう部分も確かにあったんだと思う。
それが申し訳なくて、身に覚えのないことを指摘されても謝ったり、私の分じゃない仕事を頼まれても断らなかったり、正直「それセクハラじゃ?」って思うようなことも笑って受け流したり。
きっと、こういう八方美人みたいな態度に腹が立ったんじゃないかなって、今になって考える。
「皆言ってるよ、山田さんがいると迷惑だって。仕事もロクにこなせないくせに、ぶりっ子して男に媚ばっか売っちゃって」
三ノ宮さんを中心に、何人かに囲まれながらそう言われた時も。
ただ「ごめんなさい」って、謝ることしかできなかった。
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