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「いらっしゃいませ」
はっ、と息をのむ。随分と雰囲気のある男だと思った。
とび抜けて顔が整っているというわけではない。いや、確かに一般的な基準よりは美しいといえる造形だったが、テレビを見ればもっと上はたくさんいるだろう。しかし、その高い身長も相まってどうにも視線が惹きつけられる男だった。事実、店の中はもう中年と言われるであろう年代の男性客がほとんどだったが、彼が動くたびにちらりと視線が寄せられていた。
「ご注文は」
「……っあ、の、はい、では、コーヒーを」
ください。小さく付け加えて、絢斗はほっと溜息をついた。
別に何かされたわけではない。ただ目を合わせて注文を聞かれただけ。それだけで絢斗の身体は緊張していた。
「美形だと何かオーラ的なものでも出ているのか……?」
どこか冷たい見た目からは想像できないクシャっと笑った顔が可愛かった。眼鏡の奥で優し気に細められた目が印象に残る。あれはさぞかしモテるだろうなと思った。
「お待たせしました」
一口飲んで絢斗は驚く。
「……ん、すごく美味い!」
「お口に合って良かったです。こんなに嬉しそうに飲まれるお客様は初めてですよ」
嬉しいものですね。やはりあの印象に残る笑顔をこちらに向けながらそう話す彼にひどく興味がわいた。
この人と仲良くなりたい。もっと話してみたい。
これがいわゆるギャップ萌えだろうか?頭の片隅でそんなどうでもいいことを考えながら、絢斗は久しぶりの安寧を楽しんだ。
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