マチルダの愛

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 今日発売の新刊小説『マチルダの愛』。  貴族の子息子女が集まる学園を舞台に、元悪役令嬢のマチルダが、これまでの自分の行いを改め、本来の主人公であるヒロインのカナリアの恋愛を応援しつつ、玉の輿を目指す話。 『マチルダの愛』は外伝であり、原作は『カナリアのさえずり』という小説である。  ヒロインのカナリアが、同級生の王子や学園の後輩である騎士団長の息子、元魔術師の教師などと好感度を高めつつ、学園の卒業パーティーで共に踊るパートナーを探す物語。  この世界では、学園の卒業パーティーで共に踊った相手が、そのまま婚約者となり、その後、結婚相手となる。  貴族の子女たちは、家や自分のために、少しでも良い家柄の男子学生をパートナーにしようと躍起になっていた。  ヒロインのカナリアも、最初は侯爵である父親の命令で、良い家柄の男子学生に近づこうとするが、次第に自分の本当の気持ちに気づくようになる。  やがて、父親の命令ではなく、自分が本当に想いを寄せる相手を探していくことになるのだった。  そんなカナリアの邪魔をするのが、悪役令嬢のマチルダであった。  マチルダに妨害されつつも、力強く生きていこうとするカナリアの姿に、やがてマチルダ自身も影響を受けて改心していく。  そんな改心後のマチルダを主人公にしたのが、外伝である『マチルダの愛』であった。  原作には書かれなかったマチルダの努力家な裏の顔や、実はドジっ子だった一面など、新たなマチルダが見れると話題になり、新規のファンも多く増えた。  わたしが働いている書店の女性店員の中にも、大の『マチルダ』ファンがいる。  わたしも彼女に勧められて、外伝と原作どちらも読んだ。  今風の内容で面白いとは思うが、自分の好みとは微妙に違っており、そこまで好きにはなれなかった。  男性アルバイトにレジを任せて事務室に戻ると、タイムカードを打刻して、荷物をまとめる。  室内の店員やアルバイトに挨拶を交わすと、書店を後にしたのだった。  店から出ると、外はすっかり夕暮れ時であった。 (夕食の買い物をして帰ろう)  近くのスーパーに行って、値下がりになっていた弁当を買うと、そのまま帰路に着く。  たまにはもっと違うものを食べたいと思いつつ、フリーターの身であまり贅沢は出来ないので、いつもの様に値下がりのシールが貼られた弁当のみを買って帰る。  自宅に戻って、夕食を食べながら、ひと昔前に流行った恋愛小説でも読もうと考えながら、店を出た時だった。 「危ない!!」  声が聞こえてきて振り返ると、アクセルとブレーキを踏み間違えたのか、スーパーの駐車場から飛び出してきた車が目の前にあった。  咄嗟のことで避けきれず、わたしは車につき飛ばされて地面を転がった。  そこでわたしの意識は途切れたのだった――。
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