2人が本棚に入れています
本棚に追加
1粒目 告白
「あのね、春雪。私、好きになってしまったかも知れないの」
親友の冬雪は、開口一番にそう言った。
その言葉は恥じらいながらも重く、真剣なのだと伝わってくる。
けれどその告白には、肝心の主語が抜けていた。
「それって……誰のこと?」
「あっ……。あの、その……同じ部活動の、先輩……なの」
ウチの指摘に慌て、それでも想い人について語る姿は、見ていてとても初々しい。
その〝想い人〟が、ウチのことでないのだとしても――幸せそうにその部活の『先輩』について話す冬雪の表情は、見ていて微笑ましかった。
「でも、でもね。告白しようか迷っているの」
「迷う? どうして?」
「だってきっと、先輩のことを困らせてしまうわ。そんな迷惑も掛けたくないの。でも、先輩への気持ちも、整理がつけられなくて……」
どうしたらいいかしら、と心情を吐露していく冬雪。
「ごめんなさい。こんなこと、話せるのは春雪しかできないと思ったの……!」
困らせてごめんなさい、と再三謝る親友の肩をそっと抱き寄せると、優しく頭を撫でてあげる。指の隙間を通り抜ける柔らかい髪に、シトラスの香りがそっと鼻先を擽る。
「大丈夫」
ずっと見てきたから、判る。だから、冬雪が謝る必要なんて何一つない。
「大丈夫だよ、冬雪。ウチも、好きな人がいるから冬雪の気持ちは分かるよ。だから……ウチに、ウチだけに話してくれてありがとう」
その気持ちは、同性に向けるにはまだ若く幼い。
言葉にすることも、受け入れることも、伝えることもそう簡単にはできはしない。
ずっとずっと何年も、冬雪より先に経験しているウチだから、解る。
「ウチが、先輩と一緒になれるよう取り計らってあげる」
冬雪に哀しい想いなんてさせない。させたくない。
だって、こんなに優しくて可愛くて、誰よりも一番素敵なんだもの。
最初のコメントを投稿しよう!