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日が落ちて完全に暗闇になったはずの庭の中央に、青の光が灯った。それは、白い石像が抱く一輪の花に灯っているように見える。いやまさか、見間違いではないかと目を凝らしていると、青の光はきらめきを増し、確かに蕾のままだったはずの石像の花びらが、音もなくゆっくりと開いていった。
まるで、本物の花のように。
「なんなんだ、これ」
サシャは思わず声を上げた。信じがたいことに、何度瞬きをしても、頭を振っても、頬をつねっても、目の前の光景は変わらない。変わらないどころか、光は増々強くなる。幻覚ではないようだ。
花びらから一つ、滴のような光が庭に落ちた。たった一つの光は庭全体に広がり、小さな花の一つ一つが淡い青の光を帯びる。暗闇の中に無数の星の光がちりばめられたように、花たちがそれぞれに青い光を放ち始めた。もはや現実のものとは思えない光景に、サシャは夢を見ているかのような気分になった。
いまだに信じられないでいるサシャとは対照的に、ボリスは落ち着きを取り戻し、穏やかな面持ちで庭を見つめている。
「君の言うとおりだ、サシャ」
「何が」
「ケルドーイ様の思いが、君の中に今も生きている。いや、息を吹き返したというところかな。だから彼女の花たちが命を取り戻した」
「……何言ってるか全然わかんないんだけど」
「そういうことだと、私は思う。というより、そう思いたい」
「わかんないわかんない。お前が言ってることが全然」
「長旅をしてきた甲斐があったな」
「人の話聞けよ!」
青い光の海の中央で、白い石像が穏やかな微笑みを湛えていた。
了
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