旅の目的

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旅の目的

 一夜の宿くらいならばなんとかできる、とサシャが告げると、ボリスと名乗った巡礼者は喜び勇んでついて来た。教会への大通りを、痩せた少年と大型犬のような男が並んで歩く。 「教会の倉庫でいいならな」  それは困る、という回答を予想していたサシャだったが、ボリスは一層目を輝かせるばかりだ。 「雨風をしのげるならば十分だ! 感謝する!」 「そうかい。ところで、さっきからおっさん、花、花って言うけど、この町には見られるような花なんてどこにもないぜ」 「え? そうなのかい? 確かに本で読んだのだが。ほら、ここ」  ボリスは大きな荷物から大きな本を取り出して開いて見せてきたが、細かい文字が並んでいるばかりで、サシャは眩暈がしそうだった。 「普通の子供は字なんて読めねえよ。見せんな鬱陶しい。そんなことも知らないなんて、あんたどこのお偉いさんだ」 「私はお偉いさんなどではなく、この町から南へ三か月ほど旅をした先の丘の上にあるジェレミアーシュ修道院の」 「ああもう、お前がどこから来たかなんて、どうでもいいんだよ」 「どこのって、君が言うから」  面倒くさいことこの上ないが、話を聞いてやらないことには終わらない。 「その? 花ってどんなのなんだよ」 「開花時期は春、花弁は幾重にも重なり色は」 「もっと簡単に言って」 「花びらはたくさんあって、色は白い」 「はあ」 「普段は白い花だが、春の夜には青色の光を帯びて輝き、得も言われぬ美しさなのだとか」 「知らん知らん知らん」  途中までは普通の花の話だったので耳を傾けていたが、突然現実味のない情報が飛び出してきたので、サシャは早口で遮った。
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