14人が本棚に入れています
本棚に追加
「花が光るなんて聞いたこともない。なんなんだ。魔女の花か?」
「いや、この町の守護聖人により育てられた花だと聞いている。治療に使えば、たちどころに怪我が治ったという」
守護聖人と言うと難しく聞こえるが、要は昔この町にいた立派な聖職者のことだよ、と現在の神父マレクから教わったのを、サシャは思い出した。
聖職者が守護聖人ならばマレクもそうなのかというと、違うらしい。歴代の聖職者の中でも特に町の人々から愛された、立派な人をそう呼ぶのだとか。サシャのように親を失った子供の面倒を見るマレクは十分に立派な人間だと思うのだが。大人の考えることはよくわからない。
「守護聖人って……ケルドーイ様のことか?」
「そう! この町の名前の由来ともなった方だろう?」
サシャは大きなため息をついた。
「ケルドーイ様は、百年も前に亡くなったお方だぞ。そのお方が育てた花が、今でもあるわけないだろ……いや、そもそも光る花なんてあるわけないけど」
「そうとも限らない。花が種を残し、それがまた芽吹くということを繰り返していれば、百年経とうが二百年経とうが、同じ花は残るはずだ。どんな植物だって、何も数年前からしか存在しないわけではない。考えてごらん。リンゴはどれほど前から我々の傍にあり、花を咲かせていると思う?」
「待て待て。俺はそういう歴史ウンチクの話をしてんじゃねえんだよ。最近その花を見かけたって情報とか、そういうのがあるのかと思って」
「最近でも見られるかどうかを確認したくて来たんだ」
「はあ? まさか、その本に書いてあったからっていうだけで……その程度の手がかりでここまで来たのか? 三か月もかけて?」
「十分な手がかりだ」
「……あんたヒマなんだな」
最初のコメントを投稿しよう!