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春の夜に光る花
小さな町なので、教会も小さい。昔、町の人々が協力し合って建てられたという木造の教会は、町の入り口からまっすぐに大通りを進んだ先にあった。
サシャが戻ると、老神父マレクが箒を片手に掃除をしていたところだった。ボリスの姿を見つけて、小さな目を丸くする。
「おかえり、サシャ。お客人かな」
「ああ。旅人のボリス。一晩泊めてほしいって」
「もちろん構わないよ。ただ、ベッドがないのだが」
「倉庫に放り込むから気にしないで」
まるで荷物のような言われように、ボリスはさすがに戸惑っているが、サシャは気にしない。
「マレク様。この町で花って言ったら、ハーブ園くらいかな」
「花?」
小さな老神父はこてんと首を傾げた。
「花がどうかしたのかい?」
「この人、春の夜に光るとかいう花が見たいんだって」
「はあ」
サシャは予想していたことだが、神父マレクにも心当たりはないらしい。首が傾いたまま動かない。
「ハーブ園、案内してもいい?」
「もちろん、構わないよ。遠路はるばるやって来てまで見るに堪えるものとは言えないが。せっかくだから、ケルドーイ様の石像だけでも見て行っていただきなさい」
「はーい」
「石像?」
これまで話題にはのぼらなかった言葉を聞いて、ボリスは不思議そうにサシャを見つめている。
「来ればわかるよ。こっち」
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