招かれざる客

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招かれざる客

 ケルドーイの町の中心にある教会を出て、少年は、大きな籠を背負って歩く。籠は少年の背中を覆うほど大きなものだが、中身は薬草ばかりで、さして重くはない。年老いた神父の調合した薬を町の人々に配ってあるのがこの少年、サシャの役目だ。  十三という年のわりには小柄で細く、あちこちやぶれた服を着ていたが、足取りは堂々としている。放っておいたら長くなってしまった浅い色の金髪は、適当に頭の後ろでくくられて、歩くたびに跳ねていた。  大通り沿いの民家に顔を出して、声をかける。 「じいさん、いつもの薬草」 「ああ、サシャ。いつも助かるよ……いてて」  立派な口ひげをたくわえた老人は、腰をさすっている。立ち上がるのも億劫という様子だ。 「大丈夫?」 「今日は調子がいいと思って散歩をしたら、ちょっとね」 「神父様に伝えとくよ。必要なら薬草の量を増やすから」 「いやあ、ありがとう」  その時、聞き覚えのない声が外から飛んできた。 「宿はどこかと、聞きたいのだがー!」  若い男の声だ。十中八九、通りすがりの旅人だろう。  一仕事終えたサシャはこの時、町の入り口付近にいた。山奥の小さな町ケルドーイは、町を囲うような壁を持たず門番もいない。来るもの拒まずという構造をしているだけに、町の入り口であるこの辺りには旅人が多い。気になって大通りの方へ顔をのぞかせてみれば、声の主と思しき男が、行き交う町の住民に近づいては華麗に無視されるということを繰り返していた。  男の年の頃は三十にさしかかったくらいだろうか。大きな荷物にほこりだらけの黒のローブ、ぼろぼろになって穴のあいたブーツなど、身なりこそ美しいとは言い難いものの、艶のある黒色の髪やはっきりとした目鼻立ちから、それなりに華やかな外見をしている。 「相手にすることはないよ」  サシャに対しては温かい言葉をかけた老人も、誰のものかもわからぬ声には、ひややかな顔つきだ。 「どうして?」 「あれはリバーンから来た奴だ。さっき、私も道を聞かれたんでな」  それじゃあ神父様によろしく、とだけ言って、老人は家中へと消えていく。サシャは返事をしなかった。老人が倒れたりせず、確かに部屋の奥へと向かうのを見届けると、大通りへと足を向けた。
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