けらけら笑うのは?

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けらけら笑うのは?

 静寂に包まれた暗闇の中、少女は静かに塀に寄っかかっている。  今日も何事もなさそう、そんな事を思った瞬間、がらりと鈍い音が辺りに散らばる。 「……あーあ、今度は何人連れてくればいいの?」 「やっぱりそこにいたんだね。よかったよかった」  少女は目を細めて口を尖らせる。 「ランタン持っているだろう? 早く灯りをつけてくれ」 「絶対嫌」 「どうして? 暗いままでは僕の様子が確認できないだろ?」 「今の君なんて絶対見たくない。見なくたって、今、君が、どんな様子なのかはわかってる」  強情だね、そう言うとけらけらと楽しそうな笑い声だけが響く。 「どうして君は何度も落ちるのさ!」 「僕だって故意に落ちてるわけではないよ。気づいたら、いつの間にか、落ちているだけなんだ」 「落ちないように頑張ってよ!」 「努力だけではどうにもできなくてね。僕だって、いつもばらばらになってしまうのは不本意なんだ」  暗闇の中、二人ともお互いの様子が見えないまま話を続ける。 「君はまず改名した方がいい。ハンプティ・ダンプティなんて名前が良くないの」 「どうして? 僕は自分の名前結構気に入ってるけど」 「そんな名前だからいつも落っこちてばらばらになっちゃうんだよ」 「僕は名前の通りの生き方をしているだけさ」 「だから! 名前を変えたら違う生き方ができるかもしれないでしょ!?」  それに名前が長くて言い難い! 少女は大きな声で文句を並べる。 「はいはい。文句は後でたくさん聞くから、人を呼んで来てもらえるかい?」 「……前は八十人の男の人でも足りなくて、さらに八十人呼んできてようやく君を戻せたの。次は何人かかるのかな?」 「じゃあ、次は医者と職人を呼ぶなんてどうかな? 数より質を大事にしてみてさ」  けらけらと笑い声が聞こえてくると、少女は面白がるな! と声を荒らげる。 「そんな体の君がどうしていつも塀に座るのか全然わかんない」 「王様から命じられた見張り役の君は、ただ、僕を見張ってればいいんだよ」 「……はいはい! 言われなくてもそうしますよ〜だ!」  くるり、少女は声が聞こえてくる塀に背を向けて暗闇の中を歩きだす。 「戻れなくなっても、誰のせいでもない。それは君だけのせいなんだから」  ぽつり、と言葉を落とすようにそう言い残して少女はその場から立ち去る。 「もう元には戻らない……なるほど、それは皮肉めいた比喩表現というわけだ」  一度も姿が見えていないそれは、一人でけらけらと楽しそうに笑い続けた。
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