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出逢い
蓮くんとは、ゲイ専用のアプリで一年前に出逢った。
16歳の頃から既に自覚のあった俺は、大学入学を機にそれを受け入れた。ただ、相手は慎重に選びたくてそれを拗らせたまま結局大学卒業。俺は処女であり、童貞のまま、社会へと踏み出した。
コッチ側、という認識は自覚した時からだった。
AVなんて見たって女優の方へ感情移入してしまって、どんな快感なんだろうと興味があった。自慰行為だって俺はいつも女側でイけてしまうし、気付いた頃には男同士のAVでしか抜けなくなっていた。
使う場所だって、覚えてしまった。
ネットで買った玩具は増えるばかりだったけど、物足りなさも募るばかりで。休みの日なんて、酷い時は一日中一人で後ろを開発してしまうくらい。
そんな俺の日常を変えたのが、蓮くんだった。
ネットで知ったゲイアプリに俺は迷わず登録をした。位置情報ですぐに会える人も分かるし、顔もきちんと確認出来るし、メッセージだって行える。慎重に選びたい俺にはもってこいだったのだ。
数枚の写真と、体型、求める条件なんかを他の人のプロフィールを真似しながら登録した途端、メッセージの通知が鳴り止まなかったのを今でも覚えている。
すぐに会いたがる人は、嫌だった。
かと言って、だらだらと中身の無いメッセージを続ける、"誘われ待ち"とのやり取りも面倒だった。
別に俺が特別な人間だとは思っていない。だけど、初めてを捧げる人は適当な人では嫌だった。それに———なんの経験も無いくせに、俺は"普通の性癖"なんてのは持ち合わせていなかった。
そんな時だった。
『話しませんか?』
蓮くんから初めて来たメッセージに俺は、なんとなく食い付いた。顔がめちゃくちゃタイプだったくらいしかこの時は理由が無かったのだけど。
『経験無いんですけど、大丈夫ですか?』
案外、未経験というのは避ける人が多いのもこのアプリで知った。なので一応俺はそう返事をした。
『僕も無いんです。ダメですか?』
来た返事は意外なものだった。正直、相手には"初めて"を求めてはいなかった。だって気持ち良くなりたいという事を求めているわけで。…そう思いつつも、結局は顔が好きという方が勝ってしまった俺は返事を返していた。
『大丈夫です。お兄さん、タチですよね?』
『それもよく分からないんです。』
はぁ、とため息が出た。俺はタチなんてシたいと思った事はなかった。女とは絶対に無理だし、男相手でも俺はソッチ側に興味はなかったからだ。顔は良くてもな、そう思って俺はメッセージを早速止めてしまった。
すると、
『でも同意のレベルで、痛い事をしてみたくて。』
俺は多分、この文に食い付いたんだと思う。写真を見るだけだとそんな事とは無縁そうな優しそうなイケメンが、突然そんな事を言うんだから。
『痛い事って?』
『噛んだりとかですかね。』
『良いですね、逆に僕はそういうのされたいです。』
そう、俺は何故かそんな経験も無いくせに、そんな経験がシたいと思っていた。
やる気のない返事をしていた俺は、ベットに正座しながらこの時は名前すら知らない蓮くんとのメッセージのやり取りに興奮してしまった。
『結構本気で噛んだりしたいんです。した事ないですが…』
『俺もされた事ないですけど、どうせするなら痛いくらいにされたいんです。他には?』
『首締めとかですかね。血が出ない事は興味あります。』
『良いですね。苦しいまま突っ込まれるのってどんな感覚なんだろうって気になってました。』
なんて返事をして、俺は他の人からのメッセージには目もくれずにいた。
『少し汚したいです。』
『例えば?』
『僕、髪が好きなんですけど顔と髪を汚したり…?自分のせいで汚れてるってなんか良いなって。独占欲、ですかね?』
『良いね、口でしてみたい。で、汚されたまま挿れられるのとか良いな。』
『良いですね。放置プレイとかも憧れてます。』
『うわーされたい。目隠しで放置されて玩具とか使われんの良いな。』
『あ、でもそれ玩具に嫉妬しちゃうかもです。』
『嫉妬されて無理矢理挿れられたいかも。』
『そんなのお兄さんにしたら、絶対可愛いです。』
そのメッセージを見た瞬間、下着の中から押し上げる苦しさに負けた。
本当の顔も名前も知らない相手のそんな言葉に、馬鹿みたいに興奮して、今までで一番イイ自慰行為に溺れた。
冷静さを失っている間に、早く、早く、
『明日、会いませんか?』
俺は、迷わずにそう送っていた。
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