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目を覚ましたのは、腰の痛みと喉の渇きのせいだった。 スマホで時刻を確認すると、昼なんてとっくに過ぎて14時を回る頃だった。 せっかく二週間振りに会えたのに、昨夜は二度目のシャワーの後互いに寝落ちしたようで、バスタオルやら空きボトルのローションが散乱していた。 「ぉはよ…」 後ろからほんの少し掠れた声がして、俺はゆっくりと身体をそちら側へ向けた。 目頭にかけてシュッと流れる目に、うるうるとした瞳、綺麗な涙袋。そして長い睫毛に通り過ぎた鼻筋、程良く厚めの唇。———昨日はこの目に光なんてなかったのに。 なんて事を考えながら、蓮くんの頬に手を添えてみる。 「お腹空いた。」 「僕も。」 キスの一つでもしたくなってしまったけど、なんとなくそんな空気じゃないような気がして俺は起き上がる。腰に走る地味な鈍痛と共に。 「身体…大丈夫?」 「大丈夫じゃないです。」 「…ごめんなさい。」 蓮くんは、察しの良い人だ。それにそんな心配をされると、蓮くんとのセックスを思い出してしまう。こんな本気で心配する癖に、いざヤる時は容赦無いもんな。 「いーの。あれくらいじゃなきゃ興奮しないもん。」 俺と蓮くんなんて、出逢った時から今までずっとそうだ。性欲には素直に向き合ってきた。互いに、隠した本性をブツけ合うように、何度も重なってきたんだ。 彼女が知らない蓮くんを俺は知っている。 それが、本当の蓮くんだという事も俺は知っている。 こんなのは、選ばれない俺のただの強がりなんだけど。 「ラーメン食べに行く?」 「良いね。」 仕事終わりにそのまま俺の家に来た蓮くんのスーツが、綺麗に俺のクローゼットに掛けられている。汚さなくて良かった…と思いつつ、適当な服を蓮くんに渡した。 近くだから、と俺たちはろくに髪も直さずにいつもの店へと歩幅を合わせて、慣れた手付きで注文を済ませた。 「食べたら俺ん家帰る?」 「あぁー…」 「彼女?」 「…うん、ごめん、」 謝られると少しだけイラつくのは何故だろう。気にしてると思われてるみたいで嫌なのか、俺が片想いしてるのを可哀想だと思われてるみたいで嫌なのか、自分でもよく分からない。 「あ、そうだ。今度カフェ行かない?」 なんだよ、ご機嫌取りか?なんて思いつつ俺は、良いじゃん、なんて二つ返事をしてしまった。 「僕、次の休み13日なんだよね」 「あー俺その日、早番だ。仕事終わりでもいい?」 「佑磨くんが良いなら僕は大丈夫」 「俺は余裕」 次会える約束ができたこと、本当は嬉しく思ってる。だけどなんか悔しくてそうでもない顔をしてみる。 最初は、恋愛なんかするつもりなかったのに、一年もこんな関係続けてたら、そりゃ好きになるよ。 それなのに彼女持ちなんて本当、地獄の展開だよな。 「彼女さんってどんな人なの?」 ラーメンを頬張りながら、ごく自然な感じで割と気になっていた事をようやく聞いてみた。 「…どんな人?」 「可愛い系?綺麗系?あ、てか写真ないの?」 野菜ラーメンの野菜をモサモサと食べながら蓮くんは、うーんとスマホに目を向けた。 「写真、撮らないからなぁ」 「ふーん…」 「…どちらかというと綺麗系かもだけど。」 「どこが好きなの?顔?性格?」 「えぇ…」 屈託ない笑顔でパッと答えられた方が、多分普通に傷付いたと思う。だから俺はそんな蓮くんの反応に少しだけ安心してしまった。 「でも、性格良さそうじゃん。だってセックスできないのにそれでも良いとか言ってんでしょ?」 「佑磨くん。声。」 「あ、すいませーん。」 今の俺の発言は、悪気70で無意識30ってとこだ。 「別に…"良い"とは言われてないよ。もう、諦めてるっていうか、そういう雰囲気にもならなくなったし。」 「それってさぁ、…付き合ってる意味あんの?」 「え?」 「いや、別に、セックスできなきゃ付き合ってる意味ないとは言わないけどさ。熟年夫婦でもないし、彼女だってそういう事も充分に楽しめる相手探した方が良いんじゃないのっていうか…」 少しだけ表情が強張った蓮くんにビビった俺は、俯いてラーメンを食べる事に集中した。 ———だって、俺は好きなら触れたいって思うし。 だから蓮くんに求められれば、期待だってしてしまう。自分は特別なんじゃないかって思ってしまう。 蓮くんは…そうじゃないのかな? 「言ったでしょ。…どうしようもできないんだって。」
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