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迷路への入口
翌日、気持ちが切り替えられないまま朝を迎えて、俺はモチベーションが底辺のまま仕事に来ていた。
百貨店のこの、ビシッとした空気には慣れた筈だけど、蓮くんロスに蝕まれている今の俺にはなかなかキツい。気怠さをカバーする為にいつも以上に身なりには気合を入れてきたけど、精神が正直ついてこないのだ。
「じゃ、今日は接客メインでお願いします。それぞれ顧客様とのお約束があるスタッフは休憩時間の調整とか前後の人と相談してね。じゃ、お願いします。」
俺のスケジュールは、残念ながら朝イチから埋まっている。だらっと仕事したかったんだけど、午後までしっかり顧客様との約束で埋まっていた。
「あ、あと眞下さん。今日は水瀬さんと締め作業パパッと済ませていつものお店ね。私と他の子達は先に行ってるから!」
「…えっ。…今日?」
「じゃ、私納品片付けてくるから!」
心当たりのない店長との約束が成立している状況に戸惑っていると、隣にいた水瀬さんがため息混じりに言う。
「百貨店全体の歓迎会ですよ。」
「マジですか。…え、俺知らなかったんですけど。」
「私も知らなかったんですよね。でも店長が、飲み会なんて滅多にできないからうちの店も全員出席したいって盛り上がってて。…強制参加だそうです。」
「…了解です。」
水瀬さんは、お客様のファンも多い俺の同期だ。綺麗だし可愛らしい女性だけど言い方がキツくてサバサバしていて、少しだけとっつき難い感じはある。が良い人だ。
…閉店まで、あと9時間。長ぁ…
ぼんやりそんな事を考えながら、無理矢理に笑顔を作って店頭へと足を踏み込ませた。
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