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主役にはなれない私たちは、いつも鮮やかな色を引き立てる脇役だ。
脇役には脇役の矜持が、なんて思ったこともあったけれど、何を思ったところで私たちの在り方が変わることはない。
私と同じように脇役であったけれど、星たちの瞬きのような純真さは、愛おしさを振りまくようであったそれを改めて見たとき、なんだ私とは同じじゃないと気がついてしまう。
同じ脇役でも、たくさん必要とされているそれは、私は違うのだと思い知らされる。
「これあげる、お裾分けよ」
そういって半ば無理やりに彼女は笑顔で私に渡してきた。
彼女は両手に抱えた花束から、わざわざこれだけを選んで私に渡してきた。この小さく白い花たちだけを。
私は言葉で返すことが出来ずに、ただ小さく頷くだけだった。
彼女は私のそんな反応にまた笑顔で返してくるのだ。これは嫌味か何かかと思った。格の違いを見せつけられているようなそんな卑屈な気持ちになった。
同じ部署で働いていた彼女は、その恵まれた華やかな容姿と快活な性格で中心的な存在だった。仕事においても彼女は中心的な存在で、彼女がいるからこの部署は回っているようなものだった。
彼女発案の企画が主に通った。私はよくその企画の事務的なサポートを担わされることが多かった。適材適所は仕方がないことだから私はやるべきことをやるだけだった。
ただ、同期入社で、同じ部署で、こんなにも出来が違うのかと私が居ないところで他の同僚や上司が哀れ哀れと笑い話にしているのを知っていたから、複雑でしかなかった。
彼女と一緒に仕事をすることで余計に比べられてしまうようで、ただ彼女を引き立てる存在に成り下がったようで。わざわざ成り下がらなかったって、元々私は低いところから見上げているようなものだったけれど。
そんな彼女が退社する。一身上の都合とだけ言っていた。
仰々しい見送りを彼女は嫌がった。嫌がったけれど花とかお見送りの品々が多くて駐車場まで運ぶのを手伝った。
「ごめん、手伝ってもらえるかしら」
そんな風に指名されたのが私だったから。他にもついてきたそうな人はいたし、何で私が指名されたのか不満そうな人もいたけれど同期だったし大して変な話にもならなかった。
紙袋いっぱいの彼女への贈り物を、私が持った。
そうして最後にお裾分けと渡されたのがこれだった。
白く小さな花々がちらちらとしている。わざわざそれだけを選んで渡された。花に詳しくない私でも知っている、アレンジメントや花束などで主役を引き立てる脇役としてよく使われるカスミソウだ。
「カスミソウ、嫌いだった?」
私は、ただ首を振った。
そんな私の反応に彼女はやはり柔らかい笑みを浮かべるのだ。
「花言葉は知ってる?」
私はまた、首を振った。
すると彼女はただ、そっかってぽつりと言って笑顔も何も無かった。
プライベートな連絡先を知らない彼女とは、きっとこれが最後になるだろう。車に乗った彼女を確認して、お疲れ様でしたとだけで見送った。
私にはカスミソウだけが残った。それは途中でゴミ箱に捨てた。脇役であろうと彼女に贈られた花を私が持っていたら同僚や上司に何を思われ、言われるか分かったものではない。
彼女のいなくなった部署は妙に静かだった。
変な疲れと共に私は帰宅した。
そうしてふと、カスミソウの花言葉って何だろうと気になった。どういう意図で彼女は私にカスミソウだけを渡したのだろうか。
彼女から渡された白いカスミソウは、「無邪気」、「清らかな心」、「幸福」、「親切」、そして「感謝」という花言葉があるらしい。
だからといって、私はそれをどう受け止めたらいいのか分からないけれど、あんなに華やかで中心的な彼女の不器用な表現に、今更近しいものを感じてしまったのだ。
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