20人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
2.ユカは家を出た
ユカは大阪の郊外、小さな町工場がゴチャゴチャひしめいてる町に住んでいた。両親はユカが小さい頃に離婚していた。お父ちゃんの顔なんて、全く覚えてない。写真もなかったし。
ユカとお母ちゃんの2人暮らしは、時々3人暮らしになった。
お母ちゃんのカレシが転がり込んで来るからや。
相手のカレシはちょくちょく入れ替わる。数ヶ月で出て行くヤツもおるけど、何年か居着いたヤツもおる。けど、どいつもこいつもろくに働いているようには見えへんヤツばっかりや。
結局、お母ちゃんは、ああいうヒモみたいなタイプが好きやったんかもな。
お母ちゃんは水商売をしとったから、帰ってくるのはいつも夜中過ぎやった。
ユカはお母ちゃんのカレシと2人になるのがいややった。どいつもこいつもユカを見る目が気持ち悪かった。
中学を卒業してからはバイトもしたし、なるべく夜遊びして遅く帰宅したり外泊するようになっていったが、それでも顔をあわせることはある。
“もう一緒にいるのはたまらんなあ。なんとか一人暮らしできるようになりたいなあ”と、ずっと考えていた。
けど、”お金ってなかなか貯まらんもんやなあ”
ある夜、ユカはお母ちゃんのカレシにおそわれそうになって、とっさに傍に転がってたウィスキーの瓶で殴りつけた。
男はあっけなく倒れて、そのまま動かんようになった。
頭から血が流れていた。
“えらいことしてしもた…”
“どないしよ……。どないしよ……。どないしたらええの……”
そこにお母ちゃんが帰ってきた。
部屋に入ってきて、ユカを見て、男を見て、目を剥いて、ぎゅぅと唇を噛んで、拳握って、その手がブルブル震えてた。
ユカとカレシを交互に眺めて……つま先でカレシつついてみて……
それからギロッとものすごい顔でユカを睨んで、
「あんた、今すぐここを出て行き!」
ドスの効いた、低い声で言うた。
「ええか、もう二度と帰ってくるんやないで!」
ずうっとユカをにらみつけて…。
ガタガタ震えながらスポーツバッグに少しだけの荷物を詰め込んで家を出た。
「持っていき」
お母ちゃんは出がけにそう言うて、1万円札を投げてよこした。
“私、お母ちゃんに追い出されたんや…”
哀しいのかどうか、ようワカランかった。ただ、“お母ちゃんに追い出されたんや”と、それだけが頭の中でグルグルしてた。
最初のコメントを投稿しよう!