6.夜景

1/1

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

6.夜景

 ユカが来て3年が過ぎた頃の春やったな。休みの日にポートアイランドに連れてたったら、夜景見て  「綺麗……」 て、つぶやいてた。  顔上げて、眼がキラキラしてた。  “なんちゅう可愛い子や”  「ハーバーランドちゅうのんもあるから、今度連れてったるわ」  「うん」  嬉しそうな顔やった。少し笑ろてた。  笑ろた顔、初めて見た。  俺、もうメロメロや。  その年の冬、ハーバーランドに行った頃には、俺とユカは、もうちょっと…ていうか…だいぶ、いや、かなり親密になってた。  エヘヘ…。  「しかし、なんでいきなりあの店にきたん?シンバルのこと知ってたん?」  「私、あの時、お金もなかったし、泊まるとこどうしようて…困っててん。そしたら、あの店、看板にオールナイトて書いてあったから……」  「アブナイ店やのうてよかったなあ」  「店に出入りする人見てたら、大丈夫そうやったし…ドリンクの値段とかも高くなかったし…」  「結果オーライやったな」  「うん、助かったわ」  「ディズニーランドっちゅうのんも行ってみたいなあ」  「そやなぁ…。私、東京て行ったことないわ」  「俺もや」  「なあ、今度一緒に行こうや、ディズニーランド」  「ディズニーランドかぁ…綺麗やろねぇ…」  「楽しいらしいで」  「楽しいらしいねえ」  「ディズニーランドに新婚旅行ってどや?」  ついに言うた!言うてしもた!言うたった!  「え……!」  ユカは目を見張って、マジマジと俺を見た。  「なあ、結婚、しよ。……結婚、してくれ」  「………………………………ありがとぉ」  小さな声でそういうと、ユカはしゃがみこんでシクシク泣き出した。  これはどういうことや。何で泣くんや。  「ありがとぉ」って…NOとはちゃうけど、YESともちゃうみたいな…。  何でこうなるんや??????  あとはもう、何を言うても聞いても、泣くばっかり。  周りからはジロジロ見られるし、しょうがないからタクシー奮発してシンバルまでユカを送り届けた。タクシーの運ちゃんにもミラー越しにジロジロ見られたっちゅうか、睨まれたがな。  「ごめんな……ありがとぉ…」  そう言って、ユカは休店日で誰もいない店のなかに入っていった。  悶々とした一夜を過ごした翌朝、ドアのポストに手紙が入ってた。  それを見て俺は大慌てで店に行った。  ドアから出てくるところだったマスターとぶつかりそうになった。  「お前、ユカに何したんや!」  俺を見るなりマスターは怒鳴った。  「俺…なんも…」  「何もせんのに急に出て行ってしもたりするか!」  「俺は……結婚してて……言うた」  マスターは黙って俺をにらみ続けていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加