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6.夜景
ユカが来て3年が過ぎた頃の春やったな。休みの日にポートアイランドに連れてたったら、夜景見て
「綺麗……」
て、つぶやいてた。
顔上げて、眼がキラキラしてた。
“なんちゅう可愛い子や”
「ハーバーランドちゅうのんもあるから、今度連れてったるわ」
「うん」
嬉しそうな顔やった。少し笑ろてた。
笑ろた顔、初めて見た。
俺、もうメロメロや。
その年の冬、ハーバーランドに行った頃には、俺とユカは、もうちょっと…ていうか…だいぶ、いや、かなり親密になってた。
エヘヘ…。
「しかし、なんでいきなりあの店にきたん?シンバルのこと知ってたん?」
「私、あの時、お金もなかったし、泊まるとこどうしようて…困っててん。そしたら、あの店、看板にオールナイトて書いてあったから……」
「アブナイ店やのうてよかったなあ」
「店に出入りする人見てたら、大丈夫そうやったし…ドリンクの値段とかも高くなかったし…」
「結果オーライやったな」
「うん、助かったわ」
「ディズニーランドっちゅうのんも行ってみたいなあ」
「そやなぁ…。私、東京て行ったことないわ」
「俺もや」
「なあ、今度一緒に行こうや、ディズニーランド」
「ディズニーランドかぁ…綺麗やろねぇ…」
「楽しいらしいで」
「楽しいらしいねえ」
「ディズニーランドに新婚旅行ってどや?」
ついに言うた!言うてしもた!言うたった!
「え……!」
ユカは目を見張って、マジマジと俺を見た。
「なあ、結婚、しよ。……結婚、してくれ」
「………………………………ありがとぉ」
小さな声でそういうと、ユカはしゃがみこんでシクシク泣き出した。
これはどういうことや。何で泣くんや。
「ありがとぉ」って…NOとはちゃうけど、YESともちゃうみたいな…。
何でこうなるんや??????
あとはもう、何を言うても聞いても、泣くばっかり。
周りからはジロジロ見られるし、しょうがないからタクシー奮発してシンバルまでユカを送り届けた。タクシーの運ちゃんにもミラー越しにジロジロ見られたっちゅうか、睨まれたがな。
「ごめんな……ありがとぉ…」
そう言って、ユカは休店日で誰もいない店のなかに入っていった。
悶々とした一夜を過ごした翌朝、ドアのポストに手紙が入ってた。
それを見て俺は大慌てで店に行った。
ドアから出てくるところだったマスターとぶつかりそうになった。
「お前、ユカに何したんや!」
俺を見るなりマスターは怒鳴った。
「俺…なんも…」
「何もせんのに急に出て行ってしもたりするか!」
「俺は……結婚してて……言うた」
マスターは黙って俺をにらみ続けていた。
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