1. 亡霊

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兄からせしめた警察手帳を手に再びタクシーに乗り込み、彩の待つキングス・クロスへと向かうよう運転手に告げる。 その時、折しもジャックからスマートフォンに電話が入った。 『Joe! I bring them. 』 (ジョー、犯人と似た人物を連れてきました!) 「I see. I'm coming asap.」 (わかった。すぐ行く) そう伝えると、馬鹿でかい声で「Yes,sir!」と返事が返ってきた。 その声に驚いたのか、運転手が急ブレーキを踏み智樹は助手席のシートに思い切り顔をぶつけた。 智樹は額を撫でながら、目があった運転手に愛想笑いをしてみせた。 ふと、助手席のシートに目をやるとガーディアン紙が無造作に置かれているのが目に入った。 「Actually, I bought it while you wait.」 (お客さんを待ってる間に買ったんだよ) 何気ない口調で運転手が口にしたのを聞いたが、それよりも気になったのは一面の見出しだった。 【Failure of “Class-Britain”; Prime Ministers Subjects】 (階級制度の失敗?!首相たちの課題) 見出しを見て、智樹は目を細めた。 「Well, it seems to cloudy, huh?」 (おや、曇ってきたねえ) 運転手が呟いたのを聞いて、智樹も顔を上げた。先ほどまで広がっていた青空は、今は灰色の雲に覆われている。 ―急がなければ。
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