1. 亡霊

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「彩ちゃん、何か気づいた?」 「それがさっぱり。犯人を確かに見たはずなんですけど、一瞬だけだったから顔をはっきりとまでは―」 頭を抱えた私達のところへ、智樹先輩がやってきた。 「上条さん、思ったんだけど、あのパテールって男何かあるわ!事情聴取の時、レストラン経営って話だったのにホテルに行ったって言ったじゃない?!嘘ついてるわよ、絶対!!きっとあたしにぶつかったあと駅から出てそのまま指輪を持ち出して―」 「いえ、彼が言っていることは本当ですよ。取り調べたところで指輪は出てきません」 「でも言ってたじゃないですか。“駅から出た”って―」 そう言うと、先輩は首を振った。 「“駅から出た”んじゃなく、“外出した”って言ったんだよ」 「え?」 私達は同時に先輩を見た。 「彼が話していたのは“ヒングリッシュ”。インド独自で発達した英語だ。パテールさんの両親はインドからの移民だから彼自身、ヒングリッシュを話す家庭で育ったとしても不思議じゃない。“I’m out of station”の“out of station”を英国の言葉に訳せば“go out”。つまり、『駅へ行った』ではなく、『外出した』という意味になる。“hotel”はホテルの事じゃなくてレストランの事。つまり、レストランの食材を買いに外出した、という事だ」 「へ、へええ」 「そうだったのね」 一口に英語といっても色々あることに渡英一日目にして気づかされた。 「ところで、二人にちょっと見てほしいものがあるんだがいいか?詳しくはジャックが案内してくれる」
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