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キングス・クロス駅はいくつものターミナルからなっており、ロンドン市街を繋ぐ地下鉄の他に、イギリス各州を結ぶ列車、遠くエジンバラやスコットランドへ向かう列車もここから出発する。
兄の職場があるロンドン警視庁へ向かうには、地下鉄セント・ジェームズ・パーク駅へ向かわなくてはならない。
だが智樹の足は地下鉄にではなく、タクシー乗り場へと向かった。
ロンドンタクシーの証である黒塗りのオースティンを見つけ、空席であることを確かめた。
「To Oxford University.」
(オックスフォード大学まで)
中東系の運転手に行先を告げると、スラックスの尻ポケットから携帯を取り出し彩の番号を呼び出した。
走り出して2、3分待ったが彩は出なかった。
智樹は一旦電話を切ると、窓に目をやった。
彩を迎えに行く時は気がつかなかったが、今日のロンドンは空がよく見える。
最後に空を見たのがいつだったか、思い出せない。
このところ英英辞書と論文ばかり読み込んでいたせいもあるが。
あと―彩がこっちにくると決まったのもあったか。
”留学先が決まりました!なんとなんと、イギリスです!”
メールでだから分からないが、きっと喜んでいるんだろうなと思った。
なんでこんな時に思い出したのか分からないが。
きっと電話が繋がらないせいだろう。
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