1. 亡霊

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タクシーは桜が咲き乱れる公園の傍を通り、ボドリアン図書室を素通りした。 智樹を乗せたタクシーはそのまま裏道を通っていく。 “先輩、ロンドンでまたお世話になります!” くしゃくしゃの笑顔が浮かぶ。 『Sir, Sir!』 (お客さん、お客さんてば!) 運転手の声が聞こえる。 『Your Phone!』 (携帯!鳴ってるよ!) はっとして智樹は我に返ると、慌ててスラックスのポケットをまさぐった。 液晶画面には『須藤』とある。 「ああ、俺だ」 「着信あったからかけ直したんですけど、交通警察署で何か聞けました?」 「色々面白いことがな。受付の防犯カメラには何か映ってたか?」 智樹が日本語で話すのを、運転手はミラー越しに珍しそうに見ていた。
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