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「先輩どうしましょう、このまま指輪が見つからなかったら…」
彩の今にも泣きだしそうな声の後ろから、「この役立たず!」とCHIKAの日本語の罵り声が聞こえてきた。
智樹は溜息をついた。
どうも昔からこの手には弱い。
「いいか、須藤。よく聞け。犯人は駅から外には出てない。
交通警察の警官に無線で地下鉄にいる私服警官に連絡を取ってもらったが、外に出た形跡はない。
乗客はまばらで車両にいる客のすべてが外国人もしくは旅行者で、河口域英語を話す地元の人間はいない。とりあえずお前はそこから一歩も動くな。
藤堂さんにも絶対に外に出るなと伝えろ。
それと、交通警察官のバウアーという男に
事情を話して犯人に似た人物を見つけたら事務所に連行して職質をするよう頼んでおいた」
「先輩いつの間に…っていうか、え、待ってください話が追い付かないんですけど、バウアーって、だ、誰?!」
「ジャック・バウアー。言っとくがアメリカのスパイじゃないぞ。善良な、いちイギリスの交通警察官だ。仕事はできるから安心しろ。声と図体はやたらデカいがな」
「ええっ!?冗談でしょ、先輩ぃ!!」という彩の悲鳴にも似た声を無視して智樹は一方的に電話を切った。
「やれやれだな、まったく世話の焼ける後輩だ」
智樹は運転手にここで待つように言うと、ドアを開け、職場である大学へと足を踏み入れた。
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