29人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
lesson1. 恋したいです
ふたりきりの静かな部室。筆記用具とノートを片付けていると、長く下ろしたセピアの髪がふわっと浮く。
目の前に手が出てきて、思わず退いた体が壁の前で固まった。
私を囲うようにして壁へ手を付く男子は、同じ新聞部の姫川響先輩。大人っぽい瞳でこちらをじっと見つめながら、何か言いたげな顔をしている。
大路華。中学二年にして、初めて壁ドンとやらを経験した。
知ってはいたけど、不意打ち過ぎて少し焦ってしまう。それに眼差しが鋭いから、妙な威圧感があるのだ。
「あの、姫先輩? ちょっと近すぎます」
「……そうか?」
背丈が一七八センチある姫先輩と、一五六センチの私では視線が全く違う。見上げなければ、ちょうど喉ぼとけあたりに目がいく。
中学三年のわりに、まだ声変わりが来ていない姫先輩。他の男子より少し高めの声は、親近感が湧きやすくて話しやすい。
そんなことを考えていると、クイっと顎を持ち上げられて、必然的に目が合うように仕向けられた。
最初のコメントを投稿しよう!