lesson1. 恋したいです

2/8
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「なんでこっち見ねーの?」 「……それは、ですね」  ゆらゆらと耳元で揺れる小さな(つぼみ)を気にしながら、ぐるんと視線(しせん)を泳がせる。  だって、視界に入る花が気になって仕方ないから。 「このあと、なんか予定ある?」 「あ、あの……」  チラリと送られる視線。分かってる。姫先輩の言いたいことは、頭の中では理解しているつもり。  でも、もう少しだけ待ってほしい。  胸の前に手を当てながら、右側の空間へ視線だけを流す。 「実は、わたし」 「やーめた」  パッと離された指先。猫みたいに身軽な足取りで、姫先輩(センパイ)は机へもたれた。  突然解放された体は、あまりに自由な空気を浴びて立ち尽くす。次の展開が早すぎて、状況について行けてない。  ポケットから丸い棒付きのアメを出して、姫先輩がぱくりと自分の口へ入れた。ふわんと甘い香りが漂って来て、また私の方へ目を向ける。  あともうちょっとだったかもしれないのに。なんでやめちゃうの。 「まだ咲いてないですよ? それに、お菓子は学校で食べちゃいけないの知らないんですか?」  首元に伸びている(くき)を触りながら、ちくりと言う。 「知ってる」  (した)を出して腕組みをしながら、姫先輩はハハッと楽しそうな笑みを浮かべた。完全に面白がっている。  きらりと光る白い歯。無邪気(むじゃき)な顔がたまに可愛く見えるのは(まぼろし)だ。姫先輩が可愛いわけがない。  目付きが悪くて、口の悪いこの人も花を咲かせたことがない。  女の子のことを全く分かってないんだから。まるで、花姫に出てくるモグラみたい。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!