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「なんでこっち見ねーの?」
「……それは、ですね」
ゆらゆらと耳元で揺れる小さな蕾を気にしながら、ぐるんと視線を泳がせる。
だって、視界に入る花が気になって仕方ないから。
「このあと、なんか予定ある?」
「あ、あの……」
チラリと送られる視線。分かってる。姫先輩の言いたいことは、頭の中では理解しているつもり。
でも、もう少しだけ待ってほしい。
胸の前に手を当てながら、右側の空間へ視線だけを流す。
「実は、わたし」
「やーめた」
パッと離された指先。猫みたいに身軽な足取りで、姫先輩は机へもたれた。
突然解放された体は、あまりに自由な空気を浴びて立ち尽くす。次の展開が早すぎて、状況について行けてない。
ポケットから丸い棒付きのアメを出して、姫先輩がぱくりと自分の口へ入れた。ふわんと甘い香りが漂って来て、また私の方へ目を向ける。
あともうちょっとだったかもしれないのに。なんでやめちゃうの。
「まだ咲いてないですよ? それに、お菓子は学校で食べちゃいけないの知らないんですか?」
首元に伸びている茎を触りながら、ちくりと言う。
「知ってる」
舌を出して腕組みをしながら、姫先輩はハハッと楽しそうな笑みを浮かべた。完全に面白がっている。
きらりと光る白い歯。無邪気な顔がたまに可愛く見えるのは幻だ。姫先輩が可愛いわけがない。
目付きが悪くて、口の悪いこの人も花を咲かせたことがない。
女の子のことを全く分かってないんだから。まるで、花姫に出てくるモグラみたい。
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