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だいにわ~
彼、御道(みどう)尊(みこと)は、『神道協会霊能課』の霊能者だ。
「..そこか。」
そして、私は彼の産土神。彼の一族を代々守護してきた、いわば、彼らの人生における『地の文』とでも言うべき存在だ。
「..民間人がいるな。偶然見つけた、という雰囲気ではないが...」
故に、彼らの元に私の『声』が届くことはないし、他人の耳に入ることもない。
「..まあいい。適当に記憶を書き換えれば大丈夫だろう。」
最初のうちは、互いに意思疎通できないことを寂しく感じることもあったが、今ではすっかり慣れたものだ。
「生首か。護符は一枚で足りそうだな。影響範囲が広いとはいえ、所詮はただの低級霊か。どんな未練を抱えているのかは知らんが、素直に鎮魂されてもらおう。」
彼が、手に持った札..護符を生首に軽く押し付けると、生首は消滅し、辺りの景色が見る見るうちに正常に戻っていく。そしてそれを確認した後、彼はゆっくりと首を回し、横で見物していた男に視線を向ける。
「..すげー」
感嘆を吐き出し、絞り出すように言葉を紡いだその男は、次の瞬間、虚空に向かって話しかけていた。
「すげー!おい!今の見たか!?すごくね!?」
「..精神疾患か?」
訝しげに男を観察する尊は、しかし次の瞬間、笑顔を作り、男に近づいて行く。
「あー、すみませんね、お騒がせしました~。」
その手には、記憶を改竄する護符が握られていた。
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......避けろ。
「え?」
いいから、避けろ。右でも左でもいいから。それか逃げろ。逃げ切れるとは思えないけどな。
「お、おう..とりあえず避ければいいんだな?」
ああ、合図するから。いいな?
「わかった..」
「あーすみませんね、お騒がせしましたー。」
「.....」
「いやー、ちょっとね、困ったもんですよねー。ふ~疲れちゃいましたよ...っと!」
今!
「ぬおぉ!」
危なかったなー。ちょっと遅かったらアウトだったぞ。まあでも、かっこよかったぜ!
「適当言うなよ...で、どういうつもりなんだ?いきなり殴りかかってくる..とはちょっと違うかな。いきなりとびかかってくるなんて、礼儀がなってなくないか?それとも、神道協会...だったか?そこだと、初対面の人には襲い掛かれって教えてるのか?物騒だな~。」
「...は?」
「っていうか、何それ!?お札?かっけー!!一枚もらっていい!?」
「見切られた..?あんな動きの、見るからに鍛えてもなさそうな、民間人に?」
「おーい。聞いてる~?」
「それに...協会を知っている..?なんだ..?訳が分からない..。」
「煽っても反応ないぞ。っていうか、何かブツブツ言ってるし。どうなってやがる。」
知らね。とりあえずこの場はいったん逃げとけば?生首もなんか消えてるし。
「そうだなー。」
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「..待て。」
「お?」
「そのままどこかに行かれてこの件のことを言いふらされては困るからな...それに、協会のことを知っているのも気になる..お前の身柄は、一度拘束させてもらう。」
「へ?」
間の抜けた声を最後に、その場は静寂に支配された。そして後に残ったのは、尊と、額に護符を貼られた、謎の男だけだった。
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