惑星売ります詐欺

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惑星売ります詐欺

『惑星売ります!手頃な大きさ!美しい海と空に豊かな自然があなたを待っています!別荘星にピッタリ!お問い合わせお待ちしてます!』  男はそのウェブページを見て『おっ!』と小さく声が出た。そのページの写真には家族と思しき三人が青い海と空の下で燦々(さんさん)と降り注ぐ陽光を浴びて笑顔を弾けさせていた。他にもバルコニーでバーベキューをしている写真やマリンスポーツを楽しんでいる写真などが多数掲載されていて、いかにもプライベート星で休暇を満喫している様子であった。 「地平線や水平線が湾曲してると言うことは、そんなに大きくない星と言う事だ…。確かに別荘星にピッタリだな」  男は自身と家族のために密かに別荘地として手頃な惑星を探していたのだ。だが、価格や条件で別荘地に出来るような適した惑星はなかなか見つからずいたのだ。だが、今日、自らの理想にピッタリ合う星をこの半年で初めて見つけたのだった。  男は早速その惑星を売りに出している不動産に電話した。メールよりも迅速に話が進むからだ。それに落ち落ちしていてはすぐに売れてしまうと思ったからだ。 「その惑星でしたらただいま複数のお問い合わせを頂いておりまして、内覧も順番待ちの状態となります」 「ああ、やはりそうか。とても条件の良さそうな星だからな」 「ええ、それはもう。大気はもちろん海も山も森もありますからね。5LDK、バルコニー付きの築三年の別荘、季節も一年を通して初夏の(もよ)いで、非常に過ごしやすくなっていますから」 「だろうな。写真を見ているだけでわかる」 「ただ…、足元を見るようでアレなのですが、もう一億つんで頂いて、十一億でなら特別にお客様にお譲り致しますよ」 「何だと。アンタ、それは正気か?」 「ええ勿論です。もう一億出して頂ければ他のお客様には私が話を付けますし、今回に限り特別にお客様に手配いたします」  男は内心穏やかでは無かった。とても欲しいしが、明らかにふっかけられている事が見え見えだからだ。  だが、こんなに良い条件の惑星はこの半年で一度も見た事が無かったし、この機会を逃せば次にいつ見つかるかもわからない。それにこの条件で十一億は冷静に考えてみれば決して高くない金額とも思えて来たのだ。 「わかった。お前に騙されてやる。この星を十一億で買ってやる」 「ありがとうございます〜!では、早速ご送金と手続きの方をお願いします〜!そうすればこの星は貴方のものですよ〜!」  男は言われた通りすぐに送金と手続きを済ませた。するとすぐにメールで惑星の権利書と決済書が送られてきた。男はとうとう念願の惑星を手に入れたのであった。  男は次の休みに早速購入した惑星に出かける事にした。念願だった別荘をしかも誰にも邪魔されない惑星ごと手に入れた男はウキウキしていた。  自家用宇宙船に惑星の座標を入力すると、宇宙船は静かに離陸してあっという間に大気圏を突破して宇宙を進んだ。そして数回のワープの末に二時間ほどで目的の座標にたどり着いた。だが、宇宙船は一向に着陸態勢に入らなかった。 「変だな…、そろそろ着いても良い頃だぞ」  男は一向に到着しない事を不審に思った。シートベルトを外して宇宙船の丸い小窓からレーダーが示す方角(ほうがく)に目をやると、そこにはソフトボールほどの大きさの小さな惑星が浮かんでいた。  男は騙された事に気付いて激昂(げきこう)しながら不動産屋に電話をした。 「やい!どう言う事だ⁈こんな小さな星に人間が住めるわけないだろ!よくも騙してくれたな!」 「イヤイヤ、こちらは全てご承知の上での契約だと思っておりましたので〜。  あ、ちなみにこちらの惑星はミニマム星人用の惑星ですよ。ミニマム星人はあなた方、人間の一万分の一ほどの大きさしか無いのですよ〜」 「ふざけるな‼︎これは立派な詐欺だ!間違い無く宇宙法に抵触する!ちゃんとこの前の通話も録音してあるから貴様らを会社ごと宇宙法廷に訴えてやる!覚悟しておけ!」  男はカンカンだった。その様子を嘲笑(あざわら)うかのように担当者は相変わらずヘラヘラとした様子で言った。 「ええ、それはご自由になさって下さいください。ただ、宇宙法の第五条の三項にはこうも書かれていますよ。『惑星の爆発は宇宙の摂理である。例え爆発に巻き込まれて絶命、あるいは存在不明となった者がいても如何(いか)なる理由があろうとも事故として処理される』とね」  男はこの時、このソフトボールサイズの惑星の表面に表示されていたカウントダウンが三秒になっている事に気が付いたのであった。終
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