隣の彼女は厨二病

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隣の彼女は厨二病

「ほぉ? なかなかに良い外見じゃねぇか。」  校門をくぐってすぐに目に入ったのはアーチであった。 その下には木が立ち並び、校舎までの道を作っていた。 桜とか咲いていたら綺麗なんだろうな、今は六月だから全部散っているけど。 「⋯⋯なんだよこの銅像。」  美しい校舎の横に佇む銅像に思わず目がいった。 ⋯⋯なんだよこのオッサンの銅像?  詳しく見ると、どうやらこの学校の創始者の銅像のようだ。 景観が乱れるから絶対に無い方がいいだろうな。 ―――キーンコーンカーンコーン  何処からか高い鐘の音が鳴り響く。 (ヤベェ!)  腕時計を見ると、始業前五分であった。 初っ端から遅刻なんてやっちまう訳にはいかない。 早く行かねぇと! 確か温斗が先に職員室に行け、と言っていたな。  俺は校内地図を見てその場所を確認した。 えーっと職員室は⋯⋯GO☆KA☆Iだと? このままじゃ絶対に間に合わないから⋯⋯仕方ねぇ。  俺は周囲に人がいないことをキョロキョロと確認して⋯⋯地面を踏みしめる。 力を溜めて⋯⋯思いっきり跳躍して屋上に着いた。 「⋯⋯っと。 ⋯⋯誰にも見られてねぇな?」  別にそのうち明かす、特に隠すつもりもない俺の『異能』であるがまぁどうせなら完璧なタイミングで明かして女子生徒からの人気を得たいからな!  ともあれ屋上に着いた俺は脱兎のごとく走り出して階段を下った。 この校舎は全部で七階、二回降りれば職員室だ。 ⋯⋯あった。 ここか。  明らかに作りが違うドアがあった。 すぅっと息を吸い込み、ドアノブに手を掛けようとして⋯⋯トントンと肩を叩かれた。 「あ?」  後ろを振り向くが⋯⋯誰もいない。  首を傾げつつも再びドアノブに手をかけようと前を振り返ったその時、そこには人がいた。 「やっほー! 久しぶりだねぇ! 琴雪くん! 大きくなったものだ。 ボクも嬉しいよ!」 「え⋯⋯? 瞬春(しゅんみ)さん? どうしてここに?」  俺の前に立っていたのは幼い頃から見知った美女、兼倉 瞬春(かねくらしゅんみ)であった。 彼女は腕を組みながら頷いている⋯⋯ 「どうして、か。 えーっとねぇ。 私も別の任務でここに潜入してるんだ。 それでたまたま琴雪くんが私のクラスの生徒になったんだー!」 「え? え?」  話が唐突すぎてよく理解できない。瞬春さんがクラスの担任、か。  そんなことを考えながら瞬春さんの格好を見る⋯⋯薄すぎるシャツにへそ出しのスタイル。 とてもじゃないが教壇に立つような格好じゃないような気がする。 ん? まぁ俺は好みだから問題無いけどな。 「まぁ百聞は一見にしかず。 行くよ!」 「⋯⋯!」  いきなり手を掴まれて少しドキッとした次の瞬間、俺たちは見知らぬ部屋の中で立っていた。 それが、彼女の『異能』の『瞬間移動』を発動してのことだとすぐには理解できなかった。 「よーしお前ら! ホームルーム始めるぞー!」 「いきなり現れるのビックリするんでやめてもらえないですかね?」  その間にも瞬春さんは部屋の中で着席していた人々⋯⋯恐らくは生徒だろう、とペラペラと話し出した。 どうやら本当に教師を務めているようだ。 「それで⋯⋯この方が朝に仰っていた転入生ですか?」  先程まで瞬春さんと話していた眼鏡が似合う女子が、俺に興味を向けだした。 「おぉそうだ。 それじゃ、自己紹介してもらおうかな?」  瞬春さんは、俺にチョークを持たせて自己紹介を促した。 そんな俺に皆の視線が集まる。 これは、やるしかないな。 「俺は平沼琴雪(ひらぬまこゆき)だ。 今日からこの学校に通うこととなった。 是非とも仲良くしてくれ! できれば可愛い女の子と! よろしく頼む!」  ⋯⋯あれ。  何故だか誰も喋り出す気配がない。 何人か笑っているやつはいるが、大部分はただ真顔でこちらを見つめていた。 もしかして引かれてしまったのか!? いやいや⋯⋯確かに最後のやつは少しアレだが、八割は冗談だ! 「えーっと⋯⋯まぁ仲良くしてやってくれ。」  頼みの綱の瞬春さんまでもが、どうすれば良いのか迷っているような感じだった。 ⋯⋯頼みますよ! 冗談なんですよ! 「とりあえず、平沼の席は⋯⋯お! 川瀬の横が空いているな。 とりあえず、そこに行ってくれ。」  空いている席⋯⋯  キョロキョロと探すと最後列の窓際席、そこに一つだけポツリと空いている席が確かにあった。  特に逆らう理由もないので、テクテクとその席に歩いていくその時⋯⋯俺の頭に衝撃が走った。 (なんだ⋯⋯なんだコイツ!? めっちゃくちゃ可愛いじゃん!)  俺の座る予定の席、その横に陣取る少女がめちゃくちゃに可愛かったのだ。 控えめに言っても超絶美少女である。 「やぁ。 俺は平沼だ。 よろしく!」  こんな可愛い子と是非とも良いお付き合いをさせて頂くべく、俺は過去最高級の笑顔で挨拶をした。 サラッと手を伸ばす。 できれば握手でもできればいいな、という淡い期待である。 ―――パシッ!  差し出された手を固く握られた。 握手、望みがかなったのだ! 自分でも驚いて彼女の顔を覗くと、彼女は何やら得意気な顔でこちらを見つめていた。 そして、彼女の小さく可愛らしい唇がゆっくりと言葉を紡ぎだした。 「待っていたわよ、我が盟友よ! 今こそ古き盟約を果たしましょう!」 「は?」 「あら? もしかして、よく覚えていないのかしら? まぁ無理もないわね、あの盟約は確か神話の時代に結んだものですもの⋯⋯懐かしいわ。」  ん? ん?  聞き間違いだろうか? 何やら痛々しい言葉の数々が俺に向けて放たれている気がする⋯⋯ 「あ! 自己紹介が遅れたわね。 私の名前は⋯⋯そうね。 カタストロフ=ミラージャーとでも名乗っておきましょう。 人呼んで『破滅の蜃気楼』よ。 この世界では川瀬亜莉朱(かわせありす)と名乗っているわ。 よろしくね、エターナル=ナイトメア?」  イタいイタいイタいイタい!  なんだコイツ!? いや⋯⋯もう頭では分かっている。  このカタストロフ=ミラージャー、もとい川瀬亜莉朱は厨二病罹患者であるのだ。 どうして⋯⋯こんな美少女が!  俺は神様などいないことをこの時、初めて悟ったのであった。
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