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部員紹介②
「おーい? 葉純? どこ行くんだよ?」
「能力の、紹介。」
そう呟いた葉純は俺の前へと歩いてきた。
そして⋯⋯無言で手を差し出す。
「あ? なんだよ?」
「携帯⋯⋯貸して。」
「?」
「貸してあげなよ。 面白いものが見れるぜ?」
なぜだか笑いを堪えている成哉を不審に思いながら、俺はズボンを漁り、自分の携帯を差し出した。
「あっ、ロック解除しないとな。」
「必要ない。」
宣言と同時に、カシャリと。 ロックが解除されたことを示す音が響いた。
それに驚いたのもつかの間、葉純は何やら携帯をいじり出した。 そして、何かを見つけたのか目を大きく見開き、画面に食いついた。
「おい? あまり変なことをするなよ?」
その行動を不審に思い、声をかけるのと同時に、口を開いたのは葉純だった。彼女は、まるで汚物を見つめるかのような軽蔑の眼差しで、俺を睨んで⋯⋯
「同じ女の人の写真ばっかり⋯⋯盗撮?」
はっきりとそう呟いた。
(は? 同じ女の人の写真? それって⋯⋯まさか!)
その答えが痛いほどに理解できた。
そう、我らが組織のマドンナ詩織さんの写真だ。
俺は普段から、対象に気が付かれないように行動を起こすことを訓練の一環としている。 気が付かれないで写真を撮るのも立派な訓練だ。 その対象がたまたま詩織さんであっただけで他意はない。
仮にその写真がフォルダに纏めてあったとしても、だ。
「え? 本当に? 葉純! ちょっと見せてよ!」
嬉々とした表情の成哉が迫る。
⋯⋯まずい!
このままでは俺があらぬ誤解を受けてしまうではないか。
俺の脳みそは、この状況を乗り切るための答えを考える。 そして、一つの答えが導き出された。
「させるかぁぁぁ!」
「えちょ! うわぁぁぁ!」
俺は自分の異能『身体強化』を発動、人間離れした速度で葉純の方へと迫り、まずは成哉の腹に一発入れてダウンさせる。
「返してもらうぞ。」
そのままの勢いで葉純の方を振り向き、携帯に手を伸ばす。
「⋯⋯え。」
間の抜けた声が出た。 それもそのはず、伸ばした俺の手は何かによって阻まれ、携帯に触れることが出来なかった。 まるで俺と彼女の間に見えない壁があるような⋯⋯。
「これが私の異能。」
葉純はポツリと呟く。
なるほど、バリアを貼ることができるんだな。
「なるほどな。 分かったから返してくれ。」
「⋯⋯はい。」
以外にも素直に葉純は携帯を差し出した。 とりあえずはこれで一安心だ。
「いや〜。 琴雪さん⋯⋯。」
「琴雪。 その携帯をこちらによこしなさい。」
もっとも、女性陣からは完全に不審者扱いされてしまったのだが。
「ちょっ! やめろアリス。 引っ張るな!」
アリスが携帯を取り上げようと手を伸ばすがこれを渡す訳にはいかない。
俺は異能を全開で発動して逃げ回る。
「待ちなさーい!」
「⋯⋯ハッ! 危ねないなぁ。 三途の川を渡りかけちゃったぜ。 ⋯⋯グエッ! ちょっ! やめろお前ら! 俺ここに倒れてるから! ⋯⋯グフッ!」
逃げる琴雪にそれを追いかけるアリス。 そして、踏まれ続ける成哉。 波瑠はそれを見て「えっと⋯⋯」といった感じに戸惑っている。
「⋯⋯馬鹿。」
そんな光景を、葉純は呆れながら見つめるのであった。
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