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「あなた!まだハンカチを渡していないわよ!」
わたしにハンカチを差し出す。そうだ、まだ受けとっていなかった。
ばつが悪く苦笑いして頭を掻いた。
「いやあ、すいませ――」
言い終える手前でハッとする。タカくんを見遣ると、口をとがらせ、こちらを咎めるような視線をよこしていた。
「ありがとうだよ~」
わたしはタカくんに向き合い、腰を落とし目の高さを合わせた。しっかりと目をみつめ、口端を持ち上げる。そしてタカくんの頭に手を軽く添えた。慣れない振る舞いにすこし面映ゆさを感じながらも大きな声で言った。
「ありがとう!」
タカくんは破顔した。
「ありがとうっていってくれて、ありがとう!」
一点の曇りのない綺麗な言葉に、わたしも嬉しくなって思わず返した。
「これからは、すいませんじゃなくてありがとうって言うね」
それを聞いたタカくんは、わたしに小指を突き出してきた。
「やくそくだよ!」
わたしも小指を差し出した。そしてぎこちなくもタカくんの小指と絡める。
その瞬間、静かでうら寂しい駅構内に暖かな風が流れる音を聞いた気がした。
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