灰色メロンパン

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 今日も朝がやってきてしまった。冬の朝は大嫌いだ。布団からなるべく出ないようにして、耳障りな目覚まし時計の頭を強く叩く。  現実と夢の狭間でまどろむのも数瞬、1時間後には通勤電車で人に潰されなければいけないという現実が、否が応でも思考を支配する。そんな憂鬱と戦いながら、俺はカーテンを開けた。  リビングに移動すると、テーブルの上に食べてくださいとばかりにメロンパンが用意されている。そういえば昨日、佑香がまた貰ってきたんだっけ。歯磨きを済ませた俺は、ため息を吐きながらそれを今日も口に運ぶ。 「せめて昨日と違うの貰ってきてくれよ」  パン屋で働く佑香は、売れ残ったパンを頻繁に貰って帰ってきてくれる。それ自体はありがたいのだが、残念ながら俺はメロンパンがあまり好きではない。俺はカレーパンを食べたい。2日連続で朝食がメロンパンであることは、俺にとって朝の気分がグレーからダークグレーになるくらいの影響力がある。独り言で文句を漏らすも、それを誰かに伝えたいわけではなかった。  昨日も今日も、佑香は俺が起きるよりも先にパン屋へ出勤をしている。朝が大の苦手な自分には絶対にできないことをやってのけている彼女に、朝食についての文句を伝える気はさらさらなかった。食べないで残しておくと残念がられるので、ちゃんと食べるのが俺の性分だ。 「今日の1位は、さそり座のあなた。何かチャレンジをしてみる絶好のチャンス、ラッキーアイテムはカレンダーです」  テレビをつけると、ちょうど朝の占いのタイミングだった。さそり座かつ単純思考な俺は、ダークグレーな気分がグレーに戻る。  そういえば昨日もさそり座が1位だった気がする。2日連続で同じ星座が1位になるなんてかなり珍しい。  ただ、昨日はせっかくの1位ではあったが、久しぶりの有給休暇を家で怠惰に過ごしただけだった。そう、1位だからって、何かが変わるわけではない。1位と言われて悪い気はしない、それだけだ。  着たくもないスーツを来て、したくもないマスクをして、満員電車で今日もスマホゲームをする。社会人4年目、いつもどおりの憂鬱な日常だ。  新型ウィルスの影響で生活が一変するかもしれないと思っていたが、俺の周りに限っていえば、暮らしぶりは想像以上に変わっていない。結局仕事のやり方も大きく変わらず、同じことの繰り返しだ。ただ何事に対しても自粛自粛と言われ、退屈さが増しただけだった。  別に元々、大層な日常を過ごしていたわけではない。しかしそんな俺の日常でも、失って初めて様々な色味があったことに気づかされる。  ここ最近はずっと、日常から色が抜き取られて、グレーな毎日を繰り返すだけだ。繰り返すほどに、灰色は黒色に近づいている。 「おはようございます」  申し訳程度に挨拶をして、会社の自席に着く。すると、隣の席の主任が、不思議そうな顔で俺を見つめてくる。 「あれ、幹二くん今日、有給休暇取ったんじゃないのか?なんで来た?」  最初、何を言われているのか意味がわからなかった。2日連続で有給休暇を取った覚えは全くない。うちの会社がそんなことをできる雰囲気でないことは、誰だって知っている。主任の勘違いだろうと思ってスマホを取り出し、日付を確認した。  1月18日。あれ、1月18日だ。
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