1人が本棚に入れています
本棚に追加
使命
10年ほど、彼女と一緒に居る中で、語ってもらったことがあります。
皆が優しくしてくれる世界が作りたい。きっと、誰も優しくしてれなくて、優しさが何なのか、それを理解することすらできない日々を送ってきたのでしょう。
そして、そんなの夢物語だと諦めてもいました。私も、同じ気持ちでした。結局誰も応えてくれない。どんなに持てるだけの力を、手段を捧げても。
自分が生きているうちには、到底見られそうにないと彼女は言いました。彼女は遥かなる時を生きてなお、自分が絶望しなければならない世界を憂いていました。
それが無理でも、せめて私が成し遂げたい。これが私の使命なのだと、そう思うことで、生きていきたいと願いました。
彼女はとても幸せそうでした。彼女はそう思ってなかったのでしょうが、とても満ち足りていたように見えました。だから、彼女の思いを成し遂げるには、また遠い未来、巡り会うことがあったら、幸せの中で巡り会うことができる世界。それを作ることなのです。
ある日、彼女は私を呼び出してこう言いました。
「私にはもう、時間がない。 この体に、魂が留まれない。だから、私の願い、計画、思いのすべて。それを受け取ってほしい」
そして私の手を握ると、私の中に、彼女の心の中のものが流れ込んできました。そして、魂までもを肉体が吸収していくのも感じました。
目の前には、彼女の亡骸。魂が体を離れ、命だけが失われた体。
私の中に彼女は居る。だから心配は要らない。
私の使命は、ここからです。
最初のコメントを投稿しよう!