転機

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転機

 200年ほど経った頃。一つの転機が訪れました。私の前に、一人の少年がやって来ました。  彼の親は、他の人間と何ら変わりのない、言ってみれば人間的な欲の塊。普通の人間。ですが、彼は違った。  一瞬、妙な違和感を覚えるほどに、彼は正直で、純粋でした。本気で、私の愛に応えようと試みた。  正直なところ、私は彼のことは最初は信じていませんでした。結局、愛に応える行動が私の気を良くすると、打算的に行動しているのだと思っていました。  もしそうならば、他のものより一つ上の段階に行っていると認めてはいましたが、それでも不満だったでしょう。  けれど、彼は一切そういったものがないと、だんだんと、感じられるようになりました。目に曇りがない。そして、なんの迷いも、思惑もなく、目を泳がさずにまっすぐ、私を見られる。  彼は本物だと分かりました。そして、彼の行いは、私を間違いなく幸せにしてくれていました。  ですが、その一方で悩みの種もできました。彼は、大人達からは疎まれていました。当然です。彼はいきなり私との距離を一気に縮めていきました。嫉妬と欲望にまみれた大人達の中で、不満が募るのも理解ができます。  本当なら、こんなことは理解したくなかったのですが。  よく暴力も受けていました。そして、その度に私は助けてあげました。誰も、私より強い者は居ませんでした。  彼は、助けられると、お礼と一緒に、いつもこう言っていました。 「いつか、魔女様を守れるように、強くなりたいです」  人の口からこの言葉を出せることに、私は驚かされていました。そして、ずっとその思いが折れない純粋さを、やはり守らなければと思いました。
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