親愛なるあなたへ

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親愛なるあなたへ

「どうして、そう悩むのですか? 何もそう思い詰めることなどありませんよ」 「魔女様。僕は常に、あなたの仰ること、全てに従おうとしてきたつもりです。そして、従っていたと自認しています。ですが、僕はそれの正しさを示せない。そればかりか、周りはまるでそれに反するのが正しいかのように振る舞う。なぜなのですか」 「それは、世の中が残酷だからなのです。人間とは、己の権益を追い求め、そのために汚くなれるのです。そしてその汚さを、権力で塗り固めて美化する。しかしあなたはその誤魔化しの美学に頼らなかった。誇るべきことなのですよ」 「ならなぜ! なぜ僕は、まさに今こうであるように、美学を汚いものに塗り固められようとしているのですか!」 「きっと、それもまた彼らの箔なのですよ。他者を落とせる者は強者。それはさすがの私でも否定しようのないこと。そして、強さを誇示するための箔をつけるのが、彼らの急務。その標的は、不幸か、必然なのか、あなたでした」 「必然なのか……そんな言葉が出るんだから、やっぱり、気づいてたんだ。僕が魔女様に近付くから、皆嫉妬して……!」 「魔女様……僕は、僕はここまでしてでもあなたを愛したかったのでしょうか?」 「あなたの心は、真に分かるのはあなただけ。でも私は、自分がどんなことをされようと人を愛するつもりでいます。私の最大の感情は常に愛です。そして、それをあなたにも望んでいました。それが正しかったかは、分かりませんが」 「いいんです。いいんですよ、それで。その言葉を聞けただけでも、僕にとっては十分です。あなたは常に正しかった。そしてこれからも、ずっと」  それを彼が言い切った瞬間、胸に痛みが走りました。
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