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オリトさんはさあなと軽く微笑むだけだった。意味深で余計気になる……ともやもやするものの、今まで一度たりとも言葉でどうにかなったことはない。 「……それよりこれなんです?植物の種のようですけど」 「それか?翡翠の杜でもらった種だよ。俺の古い知人がいてな、巫女と暮らしてるんだが……まあなんだ、とにかくそいつがくれたんだ。しかし何やっても咲かないときたもんだ。 ――そこでだ」 嫌な予感がする。 ニヤリと不敵に笑い、指をさされた。 「ルーカスにこれを預ける。一月(ひとつき)でいい、だから引き受けてくれよな」 「無理です」 「……相変わらず頑固だな」 読んでいた本を閉じ、薄氷色の瞳を向けられる。こういう時のオリトさんは何を考えてるのか、さっぱりわからない。 「花人にとって花言葉は確かに特別なものだろう。――ルカ。お前の母さんは、お前になんて言ってた。よく思い出してみろよ、それでも断るなら無理にとは言わねぇから」 小瓶をポンッと差し出される。いつもなら日が暮れるまで居座るのだが、なんとなく気まずくなって本屋を後にした。 帰り道はどうやって帰ったかよく覚えてない。自宅に着いてから真っ直ぐ寝室に向かい、緊張の糸がプツリと切れたかのように、ウッドベッドに倒れ込む。 ――まだ外は明るい。日暮れ前に帰るの、はじめてだ……。 ぼんやりと窓の方を見やる。 ひとりきりの部屋はなんて寒いんだろう。もう何万回も思ったことだった。オリトさんから買った本だけが心の灯で、本だけが、僕が赦される世界だった。 「……どうしたらいいんだろう。かあ、さん……」 瞼が落ち――夢の世界へと落ちていく。
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