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「――ありがとうございます」
スーツの男性は驚いた表情でねこを振り返った。
ねこは、口が勝手に動いたような感覚で、言葉を続けた。
「ありがとうございます。この方は、旦那様が自分の頑張りを見てくれていないのではと心配していましたので、旦那様が頑張りをしっかり見ていたという事を知れて、良かったと思います」
その時――ねこは初めて、老人の笑顔を見た。
「妻にいつも言われていた。『あなたは天邪鬼なんだから』って。私は子供とおんなじだ。そこのねこロボットのように、素直に感謝の言葉も述べられないのだ」
「ねこはロボットではありません。『ありがとうねこ』です」
「分かった分かった」と老人はねこの言葉を受け流す。
「なあ――」
老人が、スーツの男性を見つめて、皺だらけの目を細くした。
「お前の料理、妻に似てきた。それから、この間くれたセーターも、まるで妻が編んだようだった。お前は十分――家族になってくれたと思う」
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