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スーツの男性は、ねこを自分の部屋に迎えた。すらりと伸びた身長、ねこも160センチと大きめであるが、彼は180センチ前後だろうかと推測できた。
「何もないので、つまらないかもしれませんが」
「ねこは『ありがとうねこ』なので、つまらないという感情はありません」
「そうですか」
確かに男性の部屋には、何もなかった。小さな机と、椅子が一脚、それから、壁の隅にプラグの刺さったコンセントが一つ。お世辞にも広い部屋とは言えない。スーツの男性一人が入っただけでも狭く感じるのに、ねこがいるとそれはますますだ。
「それで……ねこさんのお仕事は」
「ねこは『ありがとうねこ』なので、ご購入者様に『ありがとう』を言います。この度はご購入くださり、ありがとうございます」
「いえいえ」
「『ありがとう』と言われたい時に、お声掛けください」
「ちなみに、他の事は?」
「ねこは『ありがとうねこ』なので、ご購入者様に『ありがとう』を言うだけです。ただし、首の後ろのボタンを押すことでモードが切り替わり、それで他の事が出来るようになります」
と、ねこは後ろを振り返ってボタンの位置を示した。
「便利なんですね」スーツの男性はそのボタンに手を伸ばす。試しにどんな機能があるのか知ろうと思ったのだ。
「ただし、変更は一日一回です」
スーツの男性は慌てて腕をひっこめた。
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