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「……今日は、うっかりしてしまったんです」
老人がいなくなってから、暫く椅子に座って黙り込んでいたスーツの男性が初めて放った言葉はそれだった。
「今日は奥様の亡くなられた日で……奥様の好きだったお団子屋さんのお団子を、つい買い忘れてしまったんです」
ねこは黙って聞いていた。スーツの男性は続ける。
「いつも買いに行くお肉屋さんに行ったら、店長さんが、『いつも買いに来てくれてありがとう』と仰ってくれて……それで、浮かれてしまったんです」
ねこは、黙って聞いていた。
「帰って来てから気付いて、慌ててお団子屋さんに行ったのですが、もう売切れてて……それで、旦那様は大層ご立腹なんです。おまけに、黙ってあなたを購入したこともばれて、仕事もろくに出来ないのにと、私を派遣した会社に言いつけると仰っていました」
ねこは、黙って聞いていた。
こういう時、何と言ったら良いのか、分からなかった。
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